2020年10月30日 15:51 弁護士ドットコム
俳優の伊藤健太郎さんが10月28日、過失運転致傷とひき逃げの疑いで逮捕、30日朝に送検された。テレビや映画への出演だけでなく、CMでも多数起用される伊藤さんだけに、関係者たちは対処に追われているようだ。
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ビデオリサーチ社による2020年上半期の「タレント別テレビCM起用社数ベスト3(関東地区)」では、起用社数14社(前年同期は3社)と男性トップを記録し、まさに「旬の俳優」だ。
スポーツ各紙は、テレビやイベント出演の取りやめ、CMやDVD販売などが影響を受けるとし、「1億円超億単位の違約金」「違約金は最低でも5億円か」と見積もっている。なお、伊藤さんが出演する映画『とんかつDJアゲ太郎』は予定通り30日に、公開された。
億単位の違約金は実際に発生するのだろうか。また、仮に発生したとして、伊藤さんが支払うことになるのだろうか。芸能法務にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。
ーー数億円とも報じられていますが、実際に違約金はどのように決まるのでしょうか
伊藤さんサイドが負担する違約金のうち特に大きな金額を占めるのがCMになります。
CMについては一般的に、広告主である企業、広告代理店、芸能事務所の3者で広告出演契約を結びます。1年契約が大半で、タレントが犯罪を行った場合には違約金が発生することが契約書に明記されているのが通常です。
実際は業界慣習として契約途中のものは日割り計算で返金するケースもあり、収録したものの丸々放送できない場合は全額返金ということになります。過去ほとんどのケースで話合いにより返金額を決めますので裁判に発展するケースは多くありません。再撮影にかかる費用を上乗せして賠償することもあり得ます。
違約金はCMだけでもトータルで1億は超えるでしょう、それにテレビの出演料の返還や、映画のPRイベントに出演できなくなったことの賠償額が上乗せされますが、こちらは1本あたり数10万から100万前後になると思われます。
過去タレントが逮捕されると、報道では大々的に数億円という見出しが躍りますが、弁護士としての経験でいうと、実際に報道されている金額に至るケースはほとんどないという認識です。今回も5億円はいきすぎかなという印象です。
ーー違約金の支払いは誰がすることになるのでしょうか
多くの場合、違約金の支払い義務を負うのは芸能事務所です。伊藤さんは今年9月に芸能事務所を移籍しています。契約上は案件が成立した際の芸能事務所が違約金の支払い義務を負うと考えられ、以前の所属事務所が賠償するということも十分ありえます。
伊藤さん本人が賠償するかどうかは所属芸能事務所と伊藤さんの間の報酬体系にもかかわってきます。
一旦芸能事務所が負担した後、今の芸能事務所や前の芸能事務所から、伊藤さんに請求するという流れになりますが、芸能事務所とタレントとの報酬体系は例えば5:5などの歩合制になっていることが多く、この割合に応じて芸能事務所が伊藤さんに請求することが考えられます。
ーー30日公開された映画は公開が決まったようです
映画上映については、出演者が逮捕されたとしても法律上は問題なく上映することができます。なので上映するかどうかは映画の製作委員会の自主判断になります。
主演作品であったとしてもそうでないとしても映画の製作にも沢山の出演者や関係者がいます。また、CMやテレビと異なり、映画は見たい人が映画館に行き見るという、見るか見ないかは視聴者の判断に委ねられています。基本的には公開自体はおこない、視聴者の判断に委ねるということが考えられるのではないでしょうか。
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。アイドルグループ『Revival:I(リバイバルアイ)』のプロデューサー。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/