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【レースフォーカス】スズキのミルがランキングトップをキープ。12戦を終えてなお、混とんとするタイトル争い/MotoGP第12戦

2020年10月28日 08:41  AUTOSPORT web

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MotoGP第12戦テルエルGP決勝レース
2020年シーズンのMotoGPはすでに12戦を終えた。しかし、チャンピオンシップはいまだ落ち着きを見せない。第12戦テルエルGPのヤマハの明暗、KTMの躍進、そして残り3戦となった今季のチャンピオンシップについて触れていく。

■モルビデリの快勝とビニャーレス、クアルタラロの消沈
 スペインのモーターランド・アラゴンで2戦連続開催となったテルエルGPは、フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)がほぼ独走で優勝を飾った。レース中盤までは、2番手のアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)が0.5秒ほどの差を維持して後方につけていた。しかし、残り6周になるころにはその差が1秒になり、最後には2秒以上になった。モルビデリはオープニングラップの5コーナーで中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)が転倒を喫したあとにトップに立つと、そのままレースをリードし続けたのだった。

「フランコは本当に素晴らしく、先週よりも速かった。僕はオーバーテイクするチャンスがなかったよ」というリンスの言葉が、モルビデリの今回の強さを証明している。モルビデリが決勝レース後の会見で語ったところによれば、テルエルGPのセッションでは「ユーズドタイヤで周回を重ね、タイヤのグリップが落ちたときに向けてバイクをセッティングしてきた。それがうまくいった」のだそうだ。

 一方、同じヤマハ勢のマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は7位、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)は8位だった。

 ビニャーレスは、フリー走行4回目では走り込んだタイヤでのタイムもよく、自信があったという。しかし、決勝レースでは「(自己ベストの)1分48秒5を出してから完全になにもかも失ってしまった。チャタリングが多かったんだ。問題はタイヤとセッティング。今日は自分のポテンシャルにはほど遠く、最後にはバイクにとどまろうとただ、クルージングしていた」という状態だった。

 また、クアルタラロも決勝日午前中のウオームアップセッションでは感触がよかったものの、決勝レースが始まってみればそのフィーリングががらりと変わったと語る。「フィーリングもグリップも、トラクションもなかった。どうしてなのかわからないよ」

 ビニャーレスとクアルタラロはレース序盤にペースが落ち、1分49秒台のタイムで周回していた。対するモルビデリが1分49秒台のラップタイムを記録し始めたのは、終盤の18周目から。このラップタイムを見るだけでも、ビニャーレスとクアルタラロがモルビデリよりも苦戦を強いられていたことがわかる。

 ちなみに走らせているマシンの側面から見れば、ビニャーレスとクアルタラロは2020年型、モルビデリは“Aスペック”。モルビデリ曰く「新しいヤマハのバイクは、僕のM1と比べてかなりの強みがあり、そして弱みもある」とのこと。もちろん、バイクの違いがこの結果を生んだすべてではないだろう。ただ、ヤマハ勢のなかで明暗が分かれる結果となったのは確かである。

■アラゴンGPで苦戦のKTM、テルエルGPでは躍進
 前戦アラゴンGPで苦戦を強いられていたKTMのポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)は、テルエルGPでは4位フィニッシュを果たした。P.エスパルガロはアラゴンGPの決勝レースで、通常は硬めのコンパウンドを選ぶところ、フロントタイヤにソフトを選択した。「弱さを感じていても、僕たちはソフトタイヤをフロントに使う必要があった。ミディアムタイヤでは、温度を適切に上げられず、機能させられなかったからだ」と、アラゴンGP後にP.エスパルガロは語っていた。よって、テルエルGPの課題は『フロントにミディアムタイヤを履いて機能させること』だった。

 その改善点をクリアしたテルエルGPの決勝レースで、P.エスパルガロはフロントにミディアムタイヤ、リヤにソフトタイヤを履いた。9番グリッドからスタートし、少しずつポジションを上げて終盤にはヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)を交わし、4位でフィニッシュした。

「フロントにソフトタイヤを履いた先週は、本当にひどかった。減速ではとても悪く、ワイドになってしまった。でも、今週は、バイクをセッティングできて、旋回もよくなった。リヤタイヤにも少しいいように作用したよ」

 上々の結果を残したのはP.エスパルガロだけではない。KTM勢としてはミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)が6位、イケル・レクオーナ(レッドブルKTMテック3)が9位。1周目に転倒リタイアとなったブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)を除き、トップ10圏内でフィニッシュしている。

 P.エスパルガロはこの週末に小さな変更を数多く試し、そうした“小さな変更”が結果に結びついた。そして、もうひとつ重要だったのは、レクオーナのセッティングだったという。レクオーナは初日総合8番手。予選では自己ベストグリッドの11番手を獲得していた。

「特にレクオーナがとてもうまくいっていて、僕たちの助けになった。最後まで彼のセットアップを使っていたんだ。本当に重要なことだったよ。外部から大きなヘルプを得るのは初めてのことだったと思う。でも、それだけ僕は金曜日に苦労していたんだ。イケルのセットアップは本当に役立った。バイクがよくなり、フロントタイヤがよくなった。そして上手く機能するようになったんだ」

 2020年シーズン、KTMは確実に前進している。表彰台にこそ上ることはなかったが、テルエルGPで見せた躍進は、印象的なものだった。

■残り3戦、チャンピオンシップの行方は
 テルエルGPを終え、2020年シーズンのMotoGPも残すところあと3戦となった。バレンシアで行われるヨーロッパGP、バレンシアGP、そして最終戦ポルトガルGPである。すでにシーズンも終盤。例年ならばチャンピオンシップを争うライダーが絞られているはずだ。

 しかし2020年シーズンはいまだ流動的な状況だと言っていい。第12戦テルエルGPまでを終え、ランキングトップは、テルエルGPで2戦連続の3位表彰台を獲得したミル。スズキとしては20年ぶりのポイントリーダーとなっている。ちなみにチーム・スズキ・エクスターは現在、チームランキングのトップだ。

 ミルから14ポイント差で2番手にクアルタラロ、さらに19ポイント差で3番手にビニャーレスが続き、そしてテルエルGPで今季2勝目を挙げたモルビデリが、トップから25ポイント差の4番手に浮上。一方、アラゴンの2連戦でまったく奮わなかったアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)は5番手に後退した。

 ひとつ、エピソードを紹介してみよう。テルエルGPの予選後の会見で、あるジャーナリストが、モルビデリとリンスはチャンピオンシップを争っていないので「テルエルGPの決勝レースではチームメイトを助けるのか」と質問した。するとモルビデリは「どうして僕が、チャンピオンシップを争っていないんだ?」と返したのである。このときモルビデリはトップから34ポイント差のランキング6番手だった。

 そして決勝レースでモルビデリは優勝し、ランキング4番手になった。決勝レース後の会見では、モルビデリ自身のタイトル争いについて質問が飛んだのだった。2020年シーズンのチャンピオンシップを表すような、ひとつのエピソードだ。

 ここで、テルエルGP決勝レース後、チャンピオンシップ上位4番手のライダーのコメントをまとめた。

ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)
「(今後は)今まで以上にミスが響いてくると思う。僕たちは速くもいないといけないけれど、速く走ろうとするときにはミスをする可能性、リスクがつきまとう。たとえば、1周目みたいなときには、僕はまったくチャンピオンシップを考えていないよ。でも、たぶん、そうだね、考えるときもある。妥協点を見つけるということだね」

ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)
「テルエルGPでは、先週と同じ結果にならず、14ポイント差でいられたのはよかった。残り3レースで、バレンシアは2戦。昨年はとてもバイクのフィーリングがよかった。ポルティマオでもこのフィーリングを持っていけると思う。ポルティマオは過去、僕が大好きだったサーキットだ。MotoGPバイクでのフィーリングが楽しみだ」

マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)
「最終的な目標はタイトルを獲得することだけど、この安定しないリザルト、バイクのフィーリングでは難しいだろう。すごくすごく厳しい。たくさんミスをしているし、技術的な観点からしてもそうだ」

フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)
「MotoGPのチャンピオンシップで4番手。すごいことだ。僕が小さい頃に夢見ていたことだよ。素晴らしいシチュエーションだ。でも、戦っているときには、いつも僕は攻めるだろう。シーズンの序盤には、特に考えていなかった。予測をするのが好きじゃないからね。コースで全力を尽くした結果を見るのが好きなんだ」

 さらに付け加えれば、残り3戦のどこかで、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が復帰してきたら……。繰り返すが、すでにシーズンは終盤だ。しかし、先の読めないチャンピオンシップは続いている。