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BTS「Dynamite」は、なぜ爆発的大ヒットに? 新規ファン層獲得した音楽的仕掛けを解説

2020年10月27日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BTS「Dynamite」

 BTSの「Dynamite」が米・ビルボードのシングルチャートで1位を獲得したことはすでに多くのメディアが報じているので、知らないという人はあまりいないはずだ。アジア出身の非英語圏アーティストとしては57年ぶりの快挙で、坂本九の「上を向いて歩こう(英題:SUKIYAKI)」以来だという。


(関連:BTS「Dynamite」MV


 「Dynamite」がファンのみならず多くのリスナーに愛された理由は何か。その問いに対して真っ先に思い浮かぶのは、70年代のディスコミュージック風のアレンジだ。この時代のディスコサウンドは“きらびやか”や“華やか”と言った形容詞がよく似合うものが多く、最も良い例としては、マイケル・ジャクソンの「Don’t Stop ‘Til You Get Enough」(1979年)があげられるだろう。閉塞感のある今の時期に必要とされるのは、ひたすら明るく元気なサウンドだとBTSは確信したに違いない。そこで採用したのが70年代のディスコミュージックであり、狙いは見事に的中したというわけだ。


 「Dynamite」が持つ親しみやすいメロディラインもヒットに貢献した要素だ。先日公開された赤頬思春期(BOL4/女性シンガー、アン・ジヨンのソロユニット)の同曲のカバーは、メロディの良さを的確に伝えてくれた。アコースティックギターの演奏をバックに歌うという簡素な映像だが、これを見るとシンプルなコード進行の繰り返しに対してメロディはかなり凝っていることがわかる。しかもどれもがメロウで美しく響き、思わず口ずさみたくフレーズばかりだ。


 ダンスパフォーマンスのキレの良さに関しては定評があったBTSだが、「Dynamite」ではその魅力をわかりやすく伝えたこともプラスに作用したと言えよう。刃群舞(カルグンム)と呼ばれる一糸乱れぬ振り付けにディスコミュージック特有の決めのポーズなどを挿入してエンターテインメント性を高めており、振り付けだけでも十分に楽しめるように工夫している。同曲の練習風景を撮影した動画が9月に公開されたので、是非チェックしてほしい。


 このように音もビジュアルも魅力的な「Dynamite」だが、日本での評判も上々だ。リリースしてから2カ月以上経つものの、現在もなお日本の主要チャートの上位をキープし、SNSなどでも「この曲を聴いて彼らのファンになった」という声が多い。今まで以上に多くの反響があったのは前述のポイントに加えて、日本はディスコミュージックの人気が特に高いというのもあるだろう。ちなみにこの手のサウンドはファン層を広げるための起爆剤として使われるケースがJ-POPシーンではよくある。ウルフルズの出世作「ガッツだぜ!!」(1995年)はその最たる例だ。


 では「Dynamite」でBTSが気になりはじめたリスナーは次に何を聴いたら良いだろうか。実は同曲のような突き抜けた明るさがあるオリジナル曲は意外と少ないのが正直なところだ。躍動感あふれるサウンドを求めるのであれば、ソウルフルなアレンジと熱いラップが印象に残る隠れた名曲「Paldogangsan」(2013年)、「Dynamite」と同じく70年代ディスコミュージックにアプローチした「Boyz with Fun」(2015年)あたりを薦めたい。


 軽やかなボーカルとラップがもっと聴きたいという人は、「Converse High」(2015年)やヒット曲「DNA」(2017年)、そしてAORのエッセンスを取り入れた「HOME」(2019年)、ユーロポップ風の「Inner Child」(2020年)が楽しめるかもしれない。中でも「Converse High」は、恋のときめきをスニーカーのブランド名で表現した歌詞がとてもユニークで耳を引く。


 キレのいいダンスをもっと堪能したいのであれば、「ON」(2020年)のプロモーションビデオ(PV)は必見だ。特にサビでの上下左右に大きく揺れるカロリー消費が多そうな振り付けは、メンバーらの身体能力の高さを証明している。また「Dynamite」のPVと対照的なハードでクールな演出はBTS入門者にとってはフレッシュに映るだろう。


 「Dynamite」の記録的な大ヒットで急速にクローズアップされることになった彼らの音楽性は、ディスコミュージックをはじめ、ヒップホップやEDM、R&Bなど様ざまなジャンルを内包しているため、簡単には言い表せない。これを機にデビューから現在までの人気曲・代表曲を聴いて、その独自性と奥深さをしっかりと味わってほしいと思う。(まつもとたくお)