2020年10月26日 10:41 弁護士ドットコム
菅義偉内閣が発足してから初の国会論戦の場となる第203臨時国会が10月26日から始まる。国会会期中は、ただでさえ長い官僚の労働時間・拘束時間がさらに増えがちで、健康リスクが高くなる。
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残業代が適切に払われていれば、まだ救いがあるかもしれない。だが、実際には満額が支給されるとは限らないようだ。しかも、省庁や部署によっても、認められる時間が違う「格差」があるという。
「強制労働省」と揶揄されることもある厚労省に約10年勤め、数年前に転職を果たした元官僚の男性は語る。
「労働時間管理もザルな部署でしたが、だいたい9時半から翌4時半ぐらいまでは職場にいました。タクシーで帰って、2~3時間寝てからまた出勤です」
しかし、これだけ働いても月給はあまり変わらなかったという。月200時間近くの残業が切り捨てられ、サービス残業になっていたからだ。こうした実態は広く知られており、近年の「学生の官僚離れ」の原因にもなっている。
人事院が発表している超過勤務の年間総時間数は、本府省で356時間(2018年/いわゆるノンキャリアを含む)。平均すると月30時間程度ということになる。
一方でたとえば、「官僚の働き方改革を求める国民の会」が2019年に発表した現役・元官僚約1000人へのアンケートでは、平均残業時間が年963時間にのぼるなど、民間の調査とは乖離がある。
どうしてこのようなことが起こるのか。
国家公務員の残業代(超勤手当)について、安倍政権は2015年、次のような答弁を閣議決定している。
「公務のため臨時又は緊急の必要がある場合において、正規の勤務時間以外の時間において勤務することを命ぜられたとき、この命令に従い勤務した時間に対して支給される」
そのため、「正規の勤務時間終了後、職員がこの命令を受けずに在庁している場合には、超過勤務手当は支給されない」。
つまり、在庁時間と労働時間が必ずしも連動しないということだ。勤務時間法(一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律)にも、同趣旨の規定がある(13条2項)。
「必要な残業代は支払われているという答弁を聞いて、怒りに震えたことを覚えています。この答弁によれば、自分は命令を受けずに緊急性もない業務を勝手にやっていたバカなやつということになりますね」(前出の元厚労官僚)
ちなみに、この答弁を引き出した質問主意書の主は元厚労大臣の長妻昭氏(立民)。男性の「元上司」だ。政治家も問題があることは分かりながら、一度にはなかなか変えられないことがうかがえる。
変えられない理由の一つに予算の問題があると言われる。前出の男性は「予算は部署によっても違い、省内でも不公平が生まれている面もありました」と語る。
たとえば、同じ厚労省内でも、残業代がほぼ満額出るという部署も経験したという。
ほかの省庁に勤める現役官僚は語る。「法改正に携わったときは、ほとんど家に帰れず、土日祝日も出勤していたので月300時間くらいの時間外労働がありましたね」
退職も検討したが、「このときは月給が100万円を超えました。別の部署のときは上限があったので、配慮してもらったのだと思います。現金なもので給与明細を見たら、もう少し頑張ろうと思えてきました」。
現在の部署でも満額出ているという。ただ、「超勤の事前申告をしてから命令、という体にはなっていますが、完全に任意で残業していますね」とも話す。
「超勤命令があれば残業代」という政府答弁とは、いささか異なる実態がありそうだ。
2019年に働き方改革法が施行され、民間では残業規制が順次始まっている。
これにより、官僚の世界でも原則年360時間、最長720時間の上限規制ができた(人事院規則15-14、第16条の2の2)。ただし、民間と違って、緊急対応のために上限を超えることも許されている。
「運用状況は各省庁にヒアリングしています。罰則はありませんが、上限を超えた場合は、各省庁が要因を整理・分析をして説明しなくてはならなくなりました」(人事院担当者)
この仕組みでの各省庁による人事院への報告は今年が初めてとなる。「世間の関心は高いと認識しています」と担当者は話す。
こうした取り組みによって、省庁によっては変化が生まれているところもあるようだ。
前出の2人とは別の省庁で働く現役官僚は、「電子勤務簿が導入され、残業代も今のところ全額出るようになりました」と話す。
上司も積極的にマネジメントをするようになり、残業時間自体も減少傾向にあるという。
とはいえ、労働環境を改善するうえで重要なのは、正確な時間把握だ。
残業代ベースで出している現状の“超勤時間”は、行政がコンプライアンスを守っているという体裁を整えるため、問題の存在を認識しながら、見て見ぬふりをした産物といえる。
「霞が関のホワイト化」を目指す、行政改革大臣と兼務の河野太郎国家公務員制度担当大臣は、全府省庁を対象に10月と11月の“在庁時間”を調査するよう指示したという。
ただし、編集部が9月に尋ねた時点では、総務省のように在庁時間まで記録を残していると回答した省庁もあれば、「人事当局において、記録をとっておりません」(文科省)と回答した省庁もあった。
実態に則した時間が報告されるのか、という懸念も残る。