2020年10月25日 10:01 弁護士ドットコム
マツコ・デラックスさんの所属事務所が、社員に対し、「正社員という立場ではなく、業務委託契約で働いてほしい」と伝えたことを『女性自身』(2020年10月27日号)が報じた。
【関連記事:不倫関係から「2児の両親」となったカップル それでも結婚させない「正妻」の意地】
『女性自身』によれば、事務所の社長は「新型コロナで、事務所の経営が難しくなっている。それぞれが自分でタレントを見つけるなど、この業界で生きていく覚悟を持ってほしい」とした上で、「正社員からフリーになってもらうよう、この9月に彼らとの契約を改めた」という。
ネット上では「正論」「有能な社長」などと同意する意見も少なくなかった。
しかし、正社員から業務委託契約に切り替えるということは、いったん退職扱いとなる。マツコさんの事務所で契約を改める際にトラブルがあったかどうかは定かでないが、正社員として働いていた人にはインパクトが大きいものであることには違いない。
「業務委託契約への変更」にはどのような意味があるのだろうか。また仮に、正社員が業務委託契約への切り替えに同意しなかった場合、法的にはどうなるのか。波多野進弁護士に聞いた。
ーー「業務委託契約への変更」をすることにはどのような理由があるのでしょうか。
使用者側の目的・利益としては、形式上は労基法や最低賃金法を守らなくても済むようにしたい、社会保険料の使用者負担部分の負担を逃れようとするものであると思われます。
また、我が国においては「解雇権濫用の法理」によって、解雇が容易にはできません。業務委託契約にすることで、簡単に契約を終了できる(辞めさせられる)ようにしたいという意図もあると思います。
ーー「業務委託契約への変更」を言い渡された場合、従わないといけないのでしょうか。
使用者が一方的に労働契約(雇用契約)から業務委託契約に変更することはできません。労働者側としては拒否するべきですし、業務委託契約書に署名押印すべきではないと考えます。
仮に拒否を理由に解雇されたとしても、その解雇は無効になり、従業員の地位の確認と解雇後の賃金請求が認められる可能性が高いです。このような事態に直面した場合には、労働問題に精通している弁護士に早期に相談すべきだと思います。
ーー形式上は業務委託契約であっても、正社員と同じように働いている人もいそうです。
もともと業務委託契約という形式を取っていたとしても、以下の観点などに照らして、労働者としての実質があるならば、実質的には労働契約と認められます。
・時間的や場所的な拘束性
・報酬の労働の対価性の有無
・仕事を断る自由があるかどうかという諾否の自由の有無
・業務における明示黙示の指揮命令の有無
・代替性の有無
業務委託契約について、その実質から労働者性(労働契約)が肯定された近時の裁判例として、イヤシス事件(大阪地裁令和元年10月24日判決、労働判例1218号80頁)が挙げられます。
労働契約であると認められれば、労基法(法定の労働時間の上限や時間外労働などの規制)、最低賃金法など労働者として当然保護されるべき法規の適用があります。
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://doshin-law.com