2020年10月23日 08:01 リアルサウンド
1位『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 16(GA文庫)』大森藤ノ、ヤスダスズヒト SBクリエイティブ
2位『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー(1)(電撃文庫)』佐島勤、石田可奈 KADOKAWA
3位『わたしの幸せな結婚 四(4)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
4位『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編3(MF文庫J)』衣笠彰梧、トモセシュンサク KADOKAWA
5位『わたしの幸せな結婚 三(3)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
6位『転生したらスライムだった件 17(GCノベルズ)』伏瀬、みっつばー マイクロマガジン社
7位『わたしの幸せな結婚(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
8位『わたしの幸せな結婚 二(2)(富士見L文庫)』顎木あくみ、月岡月穂 KADOKAWA
9位『ゴブリンスレイヤー13(GA文庫)』蝸牛くも、神奈月昇 SBクリエイティブ
10位『なんちゃってシンデレラ 王国騒乱編 お伽話のつづき、はじめました。6(12)(ビーズログ文庫)』汐邑雛、武村ゆみこ KADOKAWA
ランキング:https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#!/
TVアニメの第3期となる『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII』が始まった『ダンまち』。第2期の『魔法科高校の劣等生 来訪者編』がスタートした『魔法科』。ともに、累計発行部数が1000万部を超えるシリーズだけに、アニメを待ち望んでいたファンも多く、「ベルきゅん」に萌えたり、「さすがはお兄さまです」の声に昂ぶったりする日々の再来を喜んでいる。そんなアニメファンには先の出来事なってしまう原作小説のシリーズ最新刊が、ライトノベルのランキングでワン・ツーを決めて相変わらずの人気ぶりを見せた。
アニメで物語を追っている人には、まだ知りたくない先のストーリーになっていると注意を喚起した上で触れるなら、1位となった大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 16』(GA文庫)も、佐島勤『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー 1』(電撃文庫)も、共に大きなエピソードが終了して、次の大きくて新しい展開に突入した重要な巻ということだ。
まず『ダンまち』シリーズ。ダンジョンの深層でエルフの女性、リュー・リオンとともに戦って地上へと戻った冒険者の少年、ベル・クラネルに、リューと同じ酒場「豊穣の女主人」で働く少女、シル・フローヴァからデートの誘いがもたらされる。ベルが所属するファミリアの主神で、ベルのことが大好きな女神のヘスティアにとっては意外な展開。【ロキ・ファミリア】に所属する美少女剣士のアイズ・ヴァレンシュタインに、ベルがご執心なのを警戒して「ヴァレン何某(なにがし)」とまともに呼ばず、割って入ろうと頑張っていたが、シルについてはほとんど警戒していなかった。
振り返れば、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の第1巻から登場しては、ベルに落としましたよと言って魔石を渡し、お弁当を分け与えていた優しげなシル。第6巻でアポロンが、ベルを自分の【ファミリア】に引き込もうとして、【ヘスティア・ファミリア】にウォー・ゲームを仕掛けたときは、勇者からの預かりものだと言ってベルにお守りを渡した。それが、激しい戦いの中でベルを勝利へと導いた。
だからといって、アイズのように圧倒的な強さでベルを引きつけた存在ではなく、リューのように死線を共にした仲間でもない。ヘスティアに至っては、シルと会って話したことすらなかった。脇でサポートする存在にしか見えなかったシルが、ここでヘスティアを焦らせる女性たちの列に躍り出た。そこにあったのが、かねてからベルにご執心な美の女神、フレイヤの思惑だ。
シルが【フレイヤ・ファミリア】の団員たちに護られてきた経緯から、彼女の正体めいたものに気づいている人も多いだろう。第1巻でベルとシルとの出会いを読み返すと、同時にベルを見つめる謎の視線がすでに描かれていた。ヘスティアがシルと一度も会ったことがないという意外な事実も、ヘスティアなら感づくフレイヤとの関わりが、シルにはあったということかもしれない。
そう考えると、最初から仕込まれていたドラマが大きく動き出したのが、第16巻ということになる。この先、ベルとアイズの関係や、ベルの貞操の行方など、気になる展開が待っていそう。アニメで描かれるのは相当先になりそうなだけに、今が原作を一気に読み込む好機かもしれない。
一方の『魔法科』シリーズ。放送中のアニメ『来訪者編』で登場した、パラサイトと呼ばれる人間に寄生して人間以外の存在に変える生命体や、アンジー・シリウスという名のUSNAが抱える戦略級魔法師は、以後のシリーズの展開に大きく関わり、高校生編を締めくくる『魔法科高校の劣等生32 サクリファイス編/卒業編』まで登場して、最終的な決着がつけられる。
小説『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー1』は、『サクリファイス編/卒業編』の後、魔法師として世界最強クラスの力を持つ主人公の司波達也が、高校を卒業して魔法大学へと進んだ時間の上で、国家の敵や人類の敵といった分かりやすい相手とは違った存在との”戦い”に突入する。一国の軍隊を壊滅させられる達也のような、強大な力を持った魔法師を恐れ、警戒感を強める人類から起こる魔法師排斥の動き。それは、魔法適性はあっても実用レベルにはない人たちにも及んで、社会を分断し始めていた。
達也は動いた。一般社団法人メイジアン・カンパニーを立ち上げ、力の弱い魔法使いたちをメイジアンと呼んで救済しようとした。一方で、魔法師たちの権利のためには過激な行動も辞さない組織があって、達也の元に死角を送り込んできた。そこで見せる達也の振るまいは、人種や宗教の違いが差別や分断を生み、闘争へと至らせている現実の社会情勢に変革のヒントをもたらしそう。達成できれば妹の司波深雪ならずとも、「さすがはお兄さまです」と言って讃えたくなる。
アニメ化作品では、第2期が2021年1月から放送開始予定となっている伏瀬の原作小説最新刊『転生したらスライムだった件 17』(GCノベルズ)が6位にランクイン。『ダンまち』『魔法科』に負けない1500万部の超人気シリーズにあって、初の短編集となっていて、灼熱流ヴェルグリンドや、帝国機甲軍団軍団長のカフィギュリオといった、広大な異世界が舞台のシリーズを、脇で支えるキャラクターたちに、厚みを与えるエピソードを楽しめる。
そんなランキングの12位に名を連ねている谷川流『涼宮ハルヒの直観』は、アニメ化によってシリーズの存在、ライトノベルというカテゴリーへの関心、京都アニメーションが持つ実力などを満天下に示した超人気シリーズの9年半ぶりとなる最新刊だ。画集や雑誌に収録された2つの短編に加え、250ページ超もの書き下ろし作品「鶴屋さんの挑戦」が収録される予定で、長いハルヒと「SOS団」の不在に飢えたファンを呼び込み、11月25日の発売に向けて世界を大いに盛り上げそうだ。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。