トップへ

防衛省職員の「盗用」否定、処分公表も違法…国に賠償命じる 東京地裁

2020年10月20日 19:21  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

防衛省防衛研究所の職員が、内部資料の報告書を書く際、ほかの研究者のものを「盗用した」とされ、訓戒処分を受けたのは違法だとして、国を相手に訴えていた裁判の判決が10月20日、東京地裁であった。


【関連記事:「パスタ2品だけ注文」の客にレストランが怒りのツイート、客に問題はあった?】



東京地裁の谷口安史裁判長は、原告に対する処分の違法性を認めて、国に対して、防衛研究所のホームページに掲載されている「防衛研究所職員による研究活動の不正行為について」という原告に関する記事の削除と慰謝料110万円の支払いを命じた。



●突然、「不適切な利用がある」と通報

訴えていたのは、防衛研究所政策研究部で研究に従事している事務官、岩田英子さん。事務官として採用されたが、軍隊における女性軍人の参画のあり方などを研究している。



判決後、岩田さんと代理人の水野泰孝弁護士は東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、訴訟の経緯などを説明した。



水野弁護士によると、防衛研究所では、さまざまな研究がおこなわれており、その一つである「特別研究」が、今回問題となった。特別研究とは、防衛省の内部部局から要請を受け、防衛政策の立案および遂行に寄与することを目的に実施される調査研究で、対外的に公表されるものではない。



岩田さんはこの特別研究で、平成24年度と25年度の報告書「諸外国における女性軍人の今後の展望」に研究者の1人として携わった。そして、平成27年度には、単独で同じく特別研究の報告書「諸外国における女性軍人の人事管理等」を担当した。



その際、平成27年度の報告書で、岩田さんが「平成25年度の報告書から不適切な利用があるのでないか」という通報がされたという。



●弁護士の関与が認められない調査

通報を受けて、防衛研究所では内部で予備調査、調査委員会による本調査をおこなった。岩田さんは「平成24年度から27年度にかけての特別研究報告書はテーマが共通する一連の報告書であり、自分が執筆した報告書を引用したにすぎない。著作権法上問題がなく、他の研究者の研究成果を盗用したものではない」「自分以外にも、防衛研究所の研究員は、特別研究報告書で、他の研究員が作成した特別研究報告書を引用の表示なく利用している」などと主張した。



しかし、これらは認められず、調査委員会は岩田さんの行為が「盗用」であり、「研究活動に係る不正行為」に該当すると判断。防衛研究所は同年10月にホームページで、この「不正行為」を告知し、岩田さんを訓戒処分とした。なお、調査中、岩田さんの弁明の機会に弁護士の関与を求めたが、認められていない。



●研究成果か、内部資料か?

岩田さんは翌年に国を相手どり、名誉毀損されたなどとして提訴。訴訟では、岩田さんに対する訓戒処分やその公表に違法性がなかったかなどが争われた。



問題となったのは「特別研究の報告書」のあり方だ。東京地裁は「特別研究は、防衛省の内部の政策立案のため職務上作成される内部資料であり、防衛研究所長に対する報告も、職務上の成果を上司に提出・報告する性質」のものと認定。国側が主張していた盗用の対象となる「発表された研究成果」とは認めなかった。



また、岩田さんが「報告書を引用する際に必ずしも表示しなくてよい」と考えていたことには合理的な根拠があり、岩田さんの行為は故意によるものではないとした。そのうえで、岩田さんの行為について、東京地裁は「防衛研究所長が、『盗用』による『研究活動に係る不正行為』に該当することを理由に、この件を公表をおこなったことは、職務上の注意義務に違反する」と結論。ホームページの記事削除などを命じた。



一方で、岩田さん側が主張した平成25年度の特別研究報告書の執筆分担については、客観的な証拠が存在しないことから、認めなかった。



●原告は涙「何も悪いことはしていないのに、なぜ」

会見で岩田さんは涙声で、こう振り返った。



「私は事務官として採用されましたが、防衛研究所で研究することが認められ、真摯に研究を続けてきました。そうした中、いきなり盗用したのではと言われました。一方的に調査を受けて、翌年には訓戒処分まで受けました。



なぜそんなことを言われるのか、何も悪いことはしていないのに、なぜこんなことをされたのか本当に悲しかったです。今回の事件後にうつ病を患いましたが、現在はなんとか復帰できました。判決では、私の主張が認められて喜んでいます」



防衛研究所は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「今般の判決は、国の主張が一部認められなかったものと受け止めています。防衛省としては、今後の対応について、判決内容を慎重に検討し、関係機関と十分調整の上、適切に対応して参ります」とコメント。控訴するかは未定とした。