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再生数2000万回目前、重盛さと美「TOKYO DRIFT FREESTYLE」なぜヒット? “意外性”と“セルフプロデュース力”が鍵に

2020年10月17日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

重盛さと美

 タレント・重盛さと美がマルチな才能を活かし、ここ最近のラップ/ヒップホップシーンを賑わせているのをご存知だろうか。彼女がこのジャンルで注目を浴びるきっかけとなったのが、今年5月の外出自粛期間中にYouTubeにて公開した「重盛さと美feat.友達 TOKYO DRIFT FREESTYLE」だ。同映像は、10月16日時点で1970万回再生を突破。2000万回再生を目前に控えており、重盛自身も予想外の高記録を叩き出している。


(関連:希帆&重盛さと美、“友達”対談 「TOKYO DRIFT FREESTYLE」挑戦の経緯からオリジナル楽曲リリースに至るまで


 そもそも「TOKYO DRIFT FREESTYLE」とは、TERIYAKI BOYZ®️「TOKYO DRIFT」をビートジャックしてラップを披露し、ホームメイドビデオと共に公開するという海外発のチャレンジ企画。国内ではANARCHYやAwich、JP THE WAVYらが参加している。たしかに、タレントである重盛は間違いない知名度を備えてはいるが、彼女らの「TOKYO DRIFT FREESTYLE」は、なぜここまで大きなムーブメントを巻き起こせたのだろうか。その制作背景については希帆&重盛さと美、“友達”対談をご覧いただくとして、本稿のキーワードとなるのは、あらゆる“意外性”と重盛の“セルフプロデュース能力”。この両軸より、同楽曲のリリックと映像について紐解いていきたい。


 第一に、誰もがまず驚いたことだろうーー「重盛さと美、ラップするの!?」と。ところが、実際の楽曲を聴いてみると、安定したリズム感を持ち、やや気怠げなフロウを上手く操っている。JP THE WAVYに近いオントレンドな“ノリ”の解釈を披露しながら、“自粛疲れ”を意識してか、フラストレーションをチラつかせたような声色もすっと耳に入ってくる。ここまででお気づきだろう。あえて感想っぽく言うならば、重盛のラップは“普通に上手い”。


 そこから、彼女は自身のバース終盤で“友達”にマイクパス。まさかの電話というかたちで親友の希帆に繋いでしまうのは、いかにも“おうち時間”らしい。こういった自由度の高い楽曲の作り方や、“feat.友達”という語幹のゆるさもまた重盛らしく、いい意味で“テキトー”な表現ながらも“意外性”に秀でた部分だ。


 そんな“ゆるさ”で見逃してしまいがちだが、同楽曲のリリックは、重盛のラップ/ヒップホップに対する“理解度の高さ”がしっかりと反映された代物である。具体例を挙げるとキリがないが、バース冒頭では、元気な挨拶で自己紹介をし、“おバカタレント”という強烈なイメージを聴き手の頭に視覚的に思い出させる。


 続いて、故・志村けんをリスペクトの対象としてネームドロップするほか、コロナ禍を取り上げるテーマ性の新しさはもちろんだが、〈あ、そうだラーメン食べたい〉と、あまりに新鮮でリアルタイムすぎる心の切り替えポイントをネタとして突如に投げてくる“意外性”もまた、楽曲の面白さを生み出すポイントに。さらに、重盛は希帆のバースも書き下ろしているのだが、ここでは自身の歌唱部よりも具体的な心境吐露をしながら、仲間のフックアップを両立させているのも、ヒップホップとして評価すべき点である(今回の企画が事務所に内緒で敢行され、後で怒られたという裏話も含めると尚更だ)。


 上記のような表現すべて、ラップ/ヒップホップを構成する大前提にして究極の要素といえる。重盛がそのような要素をしっかり押さえていることからは、彼女が同ジャンルでのリスニング体験を通して、確かな素養を培っていると想像できるだろう。加えて、リリックに用いられている文体は、彼女と同年代、あるいはさらに若い世代がLINEなどのトークアプリで会話するような話し言葉だからこそ、前述したようなフロウとも親和性が高くなるほか、リリックに絵文字を使うという斬新な手法も、重盛らしさを音楽で表現した“セルフプロデュース能力”の高さを示しているのではないだろうか。


 それは、MVにおいても形は違えど同様だ。彼女は映像内にて、オーバーサイズの白いパーカー姿から、モードテイストでのお団子ヘアまで七変化。希帆の大人っぽさももちろんだが、『めちゃ×2イケてるッ!』などでの“おバカキャラ”より一転し、しばらくの間で瞬く間に垢抜けたと持て囃される圧倒的なビジュアルこそ、彼女らの「TOKYO DRIFT FREESTYLE」に“新鮮さ”を与え、唯一無二の武器となっている。


 あわせて、重盛は自室のスポットカラーを切り替えながら、コロナ禍への憤りをぶつけられるクッション、バナナやサングラスといった小道具を使用。希帆もキッチンやバスタブなどを行き来するなど、細かに分けられたカットを繋げ、コミカルな動きのある映像に仕上げているのも素晴らしい。これらの編集アレンジが、同MVを何度でも観たくなる中毒性をもたらし、結果として大きなバズを生むに至ったのだろう。


 本稿にて紹介したような重盛の才能だが、それが一回限りでないことは、彼女が作詞・作曲からMVまでをプロデュースした希帆の配信シングル『uchiseiuchi』にてすでに証明された通り。9月7日には、OZworld a.k.a. R’kumaの新曲「Vivide (feat. 重盛さと美)」にも参加するなど重盛自身も積極的なアーティスト活動を展開すると見られる)だけに、今後の活動もますます楽しみになってくる。重盛さと美のヒップホップで類い稀な快進撃は、もうすでに始まっているのかもしれない。(一条皓太)