2020年10月17日 10:21 弁護士ドットコム
外食業界はコロナ禍で大きな経済的ダメージを受けているが、「唐揚げ店」は比較的好調のようだ。近年の唐揚げブームを追い風に、各地で新規出店が続いている。
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様々な唐揚げ店に行って、味の比較を楽しむ人もいるだろう。都内の出版社に勤めるコウヘイ(30代)さんもそんな一人だ。しかし、このほど同僚とランチで行った唐揚げ店で気になることがあったという。
「一緒に行った同僚の女性が唐揚げの衣をはがして食べ始めたんです。唐揚げ店に来てるのに、唐揚げの衣を食べない人がいることに驚きました」
女性に剥がす理由を聞くと、「衣をとった唐揚げの味が好き。鶏肉でタンパク質はとりたいから、定期的に来ている」と悪びれず答えたそうだ。
「『だったら唐揚げ店以外に行けばよかった』と思いましたし、案の定、店主の人もカウンターの向こうで明らかに不愉快な顔をしていたので、追い出されたりしないかとハラハラしました」(コウヘイさん)
客が特定の食べ方をしたことを理由に退店させられることはあるのだろうか。石崎冬貴弁護士に聞いた。
ーー店側が食べ方を理由に客を退店させられるのでしょうか。
「お客様は神様です」なんて言われますが、当然ながら、法律の世界では、お店もお客さんも平等です。
お客さんがどのようなお店に入るのか自由に選べるのと同じように、お店も、お客さんを選ぶことができます。そして、食べ方についてのルールを守れるお客さんだけを入店させることも自由です。
ーーでは、ルール違反があればいつでも客を退店させられるのですか。
いえ、あらかじめ「店主の指示した食べ方を守っていただかないお客様は退店していただきます」といった張り紙がしてあるなど、お客さんにとって店側のルールが明らかであることが必要となります。
その上で、お客さんがルールを認識して入店することで、お店とお客さんとの間に、そのルールに従って食事をするという合意が成立すると考えられます。高級店のドレスコードなどが良い例です。
合意がなされたにもかかわらず、その食べ方を守らなかった場合、お店としては、退店してもらうことができます。逆に、そのような合意がなされていない場合、勝手にお皿を下げてしまったり、退店を求めることはできません。
今回のケースでも、あらかじめ食べ方を指定するような張り紙があったなどの事情がなければ、唐揚げの衣を剥がすという食べ方を許せなかったとしても、店側は退店を求めることはできないでしょう。
ーー張り紙がしてある店舗は多くないように思います。
現実社会では、そのような明確な合意がなされていない場合がほとんどだと思います。そのようなときは、どうしても「社会常識」に基づいて判断せざるを得ません。
ーー具体的にはどのようなケースが考えられますか。
たとえば、生食用ではない肉や魚などを生で食べるのは当然危険ですし、お店としても、そのような食べ方を想定していないことは、少し考えれば分かることです。
そのような場合には、お店は、お客さんに対して、退店を命じることができるでしょう。
逆に、初めて入った店で、誰も思いもしないような店主のこだわりがあったとしても、そのようなこだわりに従うという合意があったとはいえないので、退店を命じることができないと考えられます。
今なら、お店に関する詳細もネットなどで事前に入手可能です。お店に行く前に、「こだわり」のお店かどうか、下調べしておくといいかもしれませんね。
【取材協力弁護士】
石崎 冬貴(いしざき・ふゆき)弁護士
神奈川県弁護士会所属。一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会代表理事。自身でも焼肉店(新丸子「ホルモンマニア」)を経営しながら、飲食業界の法律問題を専門的に取り扱い、食品業界や飲食店を中心に顧問業務を行っている。著書に「なぜ、一年で飲食店はつぶれるのか」「飲食店の危機管理【対策マニュアル】BOOK」(いずれも旭屋出版)などがある。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/