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部活の外部指導者が「期待していない」と子どもに暴言…解任手続きなく、校長も「辞めさせられない」

2020年10月13日 10:51  弁護士ドットコム

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教員の長時間労働が問題となるなか、文部科学省では休日の部活動を地域に移行していく案が検討されている。地域の活動として地域の人材が担うことで、土日も部活動に駆り出されていた教員の負担は大きく減るだろう。


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ただ、部活動の外部指導者による「不適切な指導」で、子どもたちが追い詰められるケースも起きている。



弁護士ドットコムニュースのLINEには、中学生の子どもをもつ西日本在住の女性から「運動部の外部指導者が教育上問題のある言動を繰り返しており、毎年子どもたちが傷つけられています」というメッセージが寄せられた。



その指導者は、新型コロナウイルスによる休校中に練習をしようとしたり、子どもたちの実力を否定するような発言をしたりして、子どもたちだけでなく親までもが困惑しているという。



しかし、校長に訴えても「辞めさせることはできない」と言われ、その指導者は同じ学校の保護者でもあるため、女性は強く出ることもできず頭を悩ませている。



●「この子たちには期待していない」

女性によると、問題の指導者はその運動部に5年以上たずさわっているが、度々、子どもたちに問題発言を繰り返してきた。



部員の目の前で、他校の指導者に「この子たちには期待していない」などと発言。子どもが「このまま引退しようかな」と保護者に漏らしたことで発覚し、学校側に苦情を伝えた保護者もいた。



また、ある生徒について、「あの子はメンタル弱い」と部員の前で口にすることもあった。一部の保護者はこうした発言を問題だと思っているが、外部指導者の子どもが同じ学校に在籍していることもあり、不満を直接口にはしていないという。



指導者について学校側に相談すると校長からは「僕が見る限り、指導には問題ないので辞めさせることはできない。保護者の総意がないと」と言われ、県教育委員会の担当者からは「具体的に介入することは、仕組み上できない」と説明された。



指導者は、技術に関する指導力はあるため、チームは大会で好成績をおさめる。「ちょっと問題はあるけど指導力はある」と感謝している保護者もいるため、女性は「保護者の『総意』はありえない」とこぼす。



「あえて続投させるなら、研修などが必要ではないか」。女性はそう訴える。



「指導者は校区内の住民で、保護者でもあります。ほぼボランティアで頼んでいることもあり、これ以上研修などで負担はかけられないという遠慮なのかもしれません。指導に問題がないかチェックしたり、改善されない場合に解任したりするなどの基準や手続きが明確に決められていないことが非常に問題だと思っています」



「耐えている子たちに対して、大人は理不尽にも黙って耐えろと背中で教えていることになります。結局大人は何もしてくれないという絶望を植え付けることになってしまいます」



●外部化で指導者が契約を交わす方向に?

外部指導者は全国で一般的な存在だが、契約関係はあいまいなことが多く、謝礼や研修の規定も自治体によってバラバラだ。



外部指導者だけでは大会に生徒を引率できないことから、2017年3月、技術的な指導にくわえ大会の引率をする「部活動指導員」が新たに制度化された。学校職員と位置付けられ、事前に研修もおこなう。



ただ、「部活動指導員」の導入は進んでいない。日本中学校体育連盟の調査(2019年)によると、全国で外部指導者数は28846人であるのに対し、部活指導員は3642人だ。地方においては、なり手不足も指摘されている。



外部指導者に関して、こんな調査結果もある。神奈川県教育委員会が2013年に実施した調査によると、部活動の指導日数として1週間のうち何日が適当であるかについて、「6日以上」の割合は、教員が35.1%であったの対し、外部指導者は60.8%だった。



名古屋大の内田良准教授は「調査で外部指導者は教員に比べて、より多くの日数と時間数を部活動に費やすべきと考えていることが分かる。契約関係や安全確保が未整備な中での部活動の外部化は、子どもの負担軽減にならない」と話す。



文科省は、部活動が地域に移行する場合、民間のスポーツクラブや地域団体など外部団体が運営することを想定している。



学習院大学の長沼豊教授は「現在は位置付けがあいまいな外部指導者も、部活動の外部化にともない、契約を交わす方向にしなければならない」と話す。



「これまでは、外部指導者が長年関わっていて大会の実績もあげているとなると、体罰やハラスメントがおこっても見て見ぬ振りで、校長さえ口が出せないような傾向があった。地域部活動の中で事故がおきた場合は、その運営主体が責任を負うことになるので、指導者と契約関係を明確にする必要がある」



指導者の責任があいまいな現状にメスが入ることになるのか。学校や教育委員会の管理が行き届きにくくなるからこそ、なにか問題があった場合にはただちに契約を解除して指導現場を離れてもらうよう、事前の取り決めは必須となるだろう。