2020年10月09日 10:21 弁護士ドットコム
日本の法務省・出入国在留管理庁(入管)が、難民やその他帰国できない事情を持つ外国人をその収容施設に長期収容している問題で、ついに国連人権理事会の国連部会が「レッドカード」を突きつけた。
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自殺未遂を繰り返す、著しい体調不良で衰弱するなど、過酷な状況の中で収容されていた難民申請者2人の訴えを受けて、国連人権理事会の「恣意的拘禁国連部会」が「国際人権規約に反する」という見解をまとめたのだ。
この見解の中で、2人のケースのみならず、日本の入管制度自体を厳しく追及し、抜本的な改善を求めている。
法務省が今秋の臨時国会での審議を目指す「送還拒否の外国人に罰則」「難民申請者の送還禁止の例外規定」などを盛り込んだ入管法改正案も、その前提が根本から覆ったかたちだ。(ジャーナリスト・志葉玲)
国連人権理事会の恣意的拘禁国連部会(国連部会)は、人権侵害としての不当な拘禁について、専門家が調査して、見解を示す。
昨年10月、日本の入管の収容施設に拘束されていたトルコ籍クルド人難民、イラン難民からの通報を受けて、日本政府側の反論も受け付けたうえで、今年9月に難民2人の訴えを認める見解を示した。
その見解は、極めて厳しいもので、入管による2人の収容は、次のように国際人権規約(自由権規約)に違反すると指摘している。
・すべての人々が差別されずに規約での権利を認められ、その自由や権利が侵害された際に、救済措置を受けられる等の規約第2条に違反
・何人も恣意的に逮捕され又は抑留されず、法律で定める理由及び手続をなしに、その自由を奪われない等の規約第9条に違反
・いかなる者も法の前の平等を保障される等の規約第26条に違反
自由権規約は、世界的な人権の大原則であり、日本を含む批准国は、この規約を守る義務がある。この規約に反するとの指摘は極めて重い。
また国連部会は、難民2人の収容が、世界人権宣言14条、つまり「すべての人は、迫害からの避難を他国に求め、かつ、これを他国で享有する権利を有する」に反するとも指摘している。
難民が難民として認められ保護されることなく、収容されることを批判しているのだ。そのうえで、国連部会は、日本政府に対して、難民2人への賠償や、彼らの収容についての独立した調査や責任者への措置、今回の国連部会の見解を広く公表することを求めている。
今回、国連部会に通報した1人、トルコ籍クルド人のデニズさん(41)は日本人と結婚しているにもかかわらず、具体的な理由も示されないまま在留資格が認められず、難民申請中なのに収容された。
収容中に入管職員による集団暴行を受け、そのトラウマや妻と引き離されたストレス、入管の投与した薬の副作用等から、首を吊る、鋭利なもので首筋や手首を切りつけるなど、自殺未遂を繰り返すようになった。通算の収容期間は5年もの長期にわたる(仮放免中)。
もう1人の通報者でイラン国籍のサファリ・ディマン・ヘイダーさん(51)も、難民申請をしたが収容されて、そのストレスにより、うつ状態、逆流性食道炎、十二指腸潰瘍疑いなど、体調を著しく崩した。2週間の仮放免のあと、診断書を持参したにもかかわらず、再収容されて、通算の収容期間は4年6カ月となった(仮放免中)。
デニズさんとサファリさんは10月5日、参議院議員会館でおこなわれた記者会見に出席。「収容中に死ぬかと思った」「今も収容施設の中にいる人たちのことが心配で胸が痛い」「私たちを人間扱いしてほしい」など、その思いを語った。
【衝撃映像】入管施設での集団暴行の実態
今回の国連部会の見解の重要な点は、デニズさんとサファリさんのケースのみならず、難民その他の外国人に対する入管の対応自体の抜本的な見直しを求めていること――10月5日の会見を主催した有志の弁護士グループ「(国連恣意的拘禁WG入管収容通報弁護士チーム)は強調する。
現状、法務省・入管は在留資格を持たない外国人に対して、全件・無期限で収容をおこなっている。これに対して、国連部会の見解は次のようなものだ。
・そもそも必要性・相当性の無い収容は違法であり、原則は収容しない
・収容は最後の手段。収容するにしても期限を設けなくてはいけない
・収容するか否かを司法による審査がないことも国際法違反
つまり、入管の全件・無期限収容そのものを否定しているのだ。
折しも法務省・入管は、新たに「退去強制拒否罪(仮称)」「難民認定申請者の送還禁止の例外規定」を盛り込んだ入管法改正(改悪)案を早ければ今秋の臨時国会への提出することを目指していた。
この改正(改悪)案は、法務大臣の私的諮問機関での有識者会議「収容と送還に関する専門部会」が今年6月にまとめた提言に基づくことが予想されるが、この提言は、国連部会が指摘している問題について対応しておらず、入管法改正(改悪)の前提が根本から崩されたかたちだ。
法務省に問い合わせると、国連部会の指摘に対して、どう対応するかは「まだ検討中」だという回答だった。
国連部会はその見解の中で「(国連の人権関連の各委員会の)10年にわたる懸念の繰り返し」「日本には、庇護を求める個人に対し差別的なパターン化した態度がある」と指摘している。堪忍袋の緒が切れた、ということだろう。
日本としては耳の痛い話ではあるが、これを契機に入管行政のあり方や法制度を人権尊重のものへと見直すべきだろう。