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堀江貴文さんの餃子店トラブル 店を休業に追い込んだ「電凸」の法的問題は?

2020年10月07日 21:11  弁護士ドットコム

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「ホリエモン」こと実業家の堀江貴文さんが、自身のSNSに、飲食店のマスク着用をめぐって入店を拒否されたとつづった投稿が、話題を呼んでいる。店側はブログで反論したが、電話など問い合わせが殺到。10月3日に休業を発表した。


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堀江さんは9月21日、広島県尾道市の餃子店を訪れた際、店から「マスク着用でないと入店できない」と言われた。店にマスクのルールについて尋ねていたところ、入店を拒否されたという。



この投稿以後、餃子店は問い合わせ対応に追われたようだ。店はツイッターで「鳴り止まないお問い合わせと無言電話で心身共に消耗してきました」と打ち明けている。



また、9月末には「営業妨害電話、本当に数が多くて僕が店にいる10~15分程度の間に何回かかってきたかわからないくらいかかってた」という餃子店を訪れた人のツイートもあった。



店は10月3日、「今回の一件でイタズラ電話が続き着信音を聞くのも苦痛になった為電話の着信音を切っており注文や予約が受けられない状況と妻が体調不良になってしまい営業が続けられるような状態では無いので妻の体調が落ち着くまでしばらくの間休業します」とブログで休業を発表している。



果たして、店に何度も電話したり無言電話をしたりする「電凸」は、法的に問題ないのだろうか。小沢一仁弁護士に聞いた。



●個人経営の店舗、業務妨害となるハードルが下がる

——店は、いたずら電話に悩まされていたようです



結論から言うと、特定のある人が何度も執拗にかけ続けるようなケースは業務妨害に当たる可能性がありますが、多数の人の電話が殺到したことにより店に損害が生じたとしても、個々の電話をかける行為が店に対する業務妨害に当たると判断される可能性は低いと思います。



——いったいなぜでしょうか?



まず、個々の電凸の態様や内容が、店側の業務を妨害するような場合は、自分がした行為の範囲の責任は当然に負うことになります。いかなる場合に電凸が業務妨害に当たるかは、最終的には個々の事例から判断するしかありません。



代表的なものを挙げると、店側が電話を切ろうとしているにもかかわらず、切らせず、長時間不当なクレームを述べる、いったんは電話を切るものの、何度も繰り返し電話をかける、無言電話を繰り返す、脅迫的な発言をする、などが挙げられるかと思います。



なお、個人経営の店舗の場合は、電話対応に人が取られると、営業に悪影響が及びやすいので、業務妨害となるハードルが下がると思います。



——電話をかけた人は、一人ではないとみられます



また、今回のような事案では、多数の電凸が全体としてひとつの不法行為(共同不法行為)となり、店側に生じた損害全部を、電凸をした人ひとりひとりが連帯して負担することになるのではないか、という疑問を持たれる方もいるかと思うので、私見を述べます。



この点、共同不法行為について民法719条1項は「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。」と定めます。



——「共同の」というのは、法的にはどう考えられるのでしょうか



ここでいう、「共同の」の意味については、それぞれの加害者の行為が客観的に関連していれば足りるのか、互いに意思を通じるなどして主観的にも関連している必要があるのかについて、複数の見解がありますが、判例は前者の立場に立っています。



しかし、今回のケースでは、堀江氏の投稿した記事を見た人たちが、それぞれの解釈に基づき、それぞれがどう行動すべきか考えて行動をした結果、電凸に及んだというものであり、電凸に至る動機や経緯に独立性があるため、電凸した人たちの行為が客観的に関連しているとはいえないのではないかと思います。



したがって、共同不法行為は成立せず、多数の電話が殺到したことにより店が閉店を余儀なくされるなどして損害が生じたとしても、個々の電話をかけた人に対して、店に生じた損害の全部について賠償請求をすることは難しいと思います。



また、仮に関連していると言えるとしても、この手の事案では、かかってきた多数の電話の態様や内容を逐一記録に残し、全容を把握することは難しいでしょうから、立証のハードルが相当に高いことが予想されます。



請求の基礎となる事実を立証する責任は店側にありますから、この意味でも、共同不法行為による損害賠償請求をすることには困難が伴うと思います。



——ネットでは「餃子屋さんは可哀想」といった声も上がっています



最近はインターネット上で何か人の感情を煽るような記事が投稿されると、すぐに電話をかける傾向が強まっているように思います。



社会的影響力のある人にも当然表現の自由はありますが、起こった出来事に見合わない甚大な不利益が店側に生じることもあります。



今回の件で取り上げられた店も、店が開けなくなったのみならず、強い精神的苦痛を受け、私生活にも悪影響が生じているようです。意見を述べるとしても、対象が特定されないような配慮は必要だと思います。



また、情報を受け取る側も、記事を読んで不快になったからといって、すぐに電話をかけるなどの行動に出るのではなく、一方だけの意見を聞いて、他方が悪いと判断できるのか。また、電話をかけるなどしたらどのような影響が店側に及ぶのか、一歩下がって考えられるようになるとよいのではないかと思います。




【取材協力弁護士】
小沢 一仁(おざわ・かずひと)弁護士
2009年弁護士登録。2014年まで、主に倒産処理、企業法務、民事介入暴力を扱う法律事務所で研鑽を積む。現インテグラル法律事務所シニアパートナー。上記分野の他、労働、インターネット、男女問題等、多様な業務を扱う。
事務所名:インテグラル法律事務所
事務所URL:https://ozawa-lawyer.jp/