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アニメ『マクロス』シリーズ、各年代の“これだけは聴いてほしい”楽曲の数々 サブスク解禁を機にピックアップ

2020年10月07日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

V.A.『娘々FIRE!!~突撃プラネットエクスプロージョン/ヴァージンストーリー』

 アニメ『マクロス』シリーズ関連楽曲580曲のストリーミング配信が、各サブスクリプションサービスで10月1日よりスタートした。1982年に放送開始された『超時空要塞マクロス』に端を発する同シリーズは、以後約40年間にわたってコンスタントに新作が制作されている、日本を代表するロボットアニメシリーズのひとつだ。


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 サブスク解禁を機に、同シリーズの音楽世界に触れてみたいというリスナーの中には、「曲が多すぎてどこから聴いていいのかわからない」と途方に暮れている人もいるかもしれない。そこで、これだけは聴いて欲しいと思う楽曲を各年代から数曲ずつ、独断と偏見に基づいて紹介していきたい。


■避けては通れない、絶対的な2曲
 シリーズ中で最も重要ともいえる楽曲が『マクロスF(フロンティア)』(2008年)挿入歌ランカ・リー=中島愛「星間飛行」であることに異論のあるファンは、おそらくごく少数だろう。わざわざ紹介するまでもないほどの定番曲であるため、ここでは詳細な解説は割愛する。


 今回初めてサブスクで聴けるようになった定番曲といえば、その筆頭は劇場アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984年)主題歌の飯島真理「愛・おぼえていますか」だろう。「星間飛行」と同等か、それ以上にファンから深く愛され続けている不朽の名曲で、加藤和彦が作曲、安井かずみが作詞を手がけている。


 近年あまり聴かれなくなった“ドン・ドドン・タン”と4拍目のみにアクセントが来るゆったりしたリズムパターンを持つバラード曲で、キラキラしたシンセを惜しみなく使ったAOR寄りのサウンド感が80年代らしい1曲。飯島がソロシンガーとして歌う洋楽のようなAOR系の楽曲よりもはるかに歌謡テイストに寄せているため、広く一般に親しまれたのもうなずける。2019年にNHK BSプレミアムにて放送された特番『発表!全マクロス大投票』では、歌部門1位に輝いている。


 『マクロス』シリーズ楽曲を語る上で絶対に避けては通れないのが、上記2曲だ。万が一未聴の人は、問答無用で今すぐ聴いておこう。


■初代は名曲・珍曲の宝庫
 ここからは、年代別に注目曲をかいつまんでピックアップする。初代『超時空要塞マクロス』(1982年)では、飯島演じるヒロインのリン・ミンメイが歌う数々のアイドルポップスがもれなく秀逸だ。中でも「私の彼はパイロット」は白眉で、抑えの効いたバンドサウンドに流麗なストリングスが添えられた王道80年代アイドルポップスでありながら、どこからどこまでがAメロ・Bメロ・サビなのかがまったくわからない作りとなっている。野心的であると同時に、音楽的にも高度な1曲と言えよう。作曲は、初代シリーズの音楽全般を担当したクラシック界の重鎮・羽田健太郎だ。


 もうひとつ外せないのが、初代の主題歌である藤原誠「マクロス」。同じく羽田の手によるものだが、やはりAメロ・Bメロといった構造がハッキリしない曲で、そもそもジャンルがよくわからない。ブラスバンド曲のように始まり、ムード歌謡っぽい展開をしたかと思えば強引にフュージョンテイストが盛り込まれ、執拗なまでにリズムチェンジを繰り返しながら最終的に〈マクロス マクロス マクロス〉とタイトルを朗々と歌い上げて終わるという、実にプログレッシブな構造となっている。


 当時のロボットアニメでは、内容の重厚さに反比例するような能天気で勇ましい主題歌が定番であった(たとえば『機動戦士ガンダム』の「翔べ!ガンダム」など)。が、これはそれとも毛色が違う。タイトルを連呼するパートなどは当時のアニソンのようではあるものの、勇ましさよりはアダルトなムードが強調されており、かといってそれ一辺倒でもない。なんともつかみどころのない、シリーズ史上でも群を抜いて異彩を放つ奇曲と言っていいだろう。一般的にはあまり語られることの多くない1曲だが、後世に語り継がれるべき曲ではあると思う。


■菅野よう子、見参
 90年代のトピックとしては、菅野よう子の参入が最重要項目だ。OVAシリーズ『マクロスプラス』(1994年)で劇伴を担当した菅野は劇中曲も手がけ、数多くの名曲を残している。そんな『プラス』の人気曲といえば、やはり新居昭乃「VOICES」ということになるだろう。大陸的なメロディが印象的な、人間の根源的な部分を刺激するタイプの1曲だ。新居による楽曲については、似た系統の「WANNA BE AN ANGEL」も要注目だが、「Idol Talk」のようなインダストリアルテイストのクールなダンスナンバーも非常にクオリティが高く、菅野ならではの守備範囲の異常な広さを存分に楽しむことができる。


 同じく90年代の『マクロス7』(1994年)では、劇中のハードロックバンド・Fire Bomberの楽曲群が中心となってくる。Led ZeppelinやBon Joviなど、世界のハードロック/ヘヴィメタルの名曲からの引用を隙あらば差し込もうとする、気概にあふれた楽曲が多いのも特徴だ。そうした元ネタを探しながら聴き込んでいくのも楽しいだろう。


 それと、若干“番外編”的にはなるが、1997年にリリースされたプレイステーション用ソフト『MACROSS DIGITAL MISSION VF-X』のエンディング曲、MILKY DOLLSによる「虹のパレット」などは、“隠れた名曲”のひとつと言えるだろう。ハーフシャッフルビートのミディアムナンバーで、スタイリッシュかつひねりの効いたメロディラインとコード進行、細かくグルーヴするベースラインが楽しめる佳曲だ。


■伝統を受け継ぐ『マクロスF』と『マクロスΔ』
 2000年以降では、『マクロスF』の存在感が大きい。本作も『プラス』同様に菅野よう子が音楽を担当しており、多くの劇中歌やキャラクターソングを手がけている。「星間飛行」以外では、シェリル・ノーム(May’n)とランカ・リー(中島愛)のデュエット曲「ライオン」なども非常に人気の高い1曲だ。また、言うまでもなく坂本真綾が歌ったオープニング曲「トライアングラー」は必修科目である。


 『マクロスΔ』(2016年)では、ワルキューレ(JUNNA、鈴木みのり、安野希世乃、東山奈央、西田望見)が人気を博したことが記憶に新しい。今年に入ってからも新曲をリリースするなど“現役”グループであるとも言えるため、あえて注目曲を挙げる必要もないとは思うが、一応挙げるなら人気曲「AXIA~ダイスキでダイキライ~」あたりから入るか、あるいはデビュー曲「いけないボーダーライン」から順に追っていくのもいいだろう。


 『マクロスF』のシェリルとランカもそうだが、ワルキューレのメンバーもそれぞれ“中の人”がソロシンガーとしても大活躍しているのは周知の通り。リン・ミンメイ(=飯島真理)に端を発する同シリーズの伝統は、40年近く経った今でも正しく受け継がれているのだ。(ナカニシキュウ)