トヨタ自動車が本格的な賃金制度の改革に取り組む。2021年1月から一律的な定期昇給をなくし、人事評価が全面的に反映される新制度を導入する。評価次第では、"定昇ゼロ"もあり得るという。
同社広報は「頑張っている人により報いたい」と新制度のねらいを語った。
理論的には「定昇ゼロ」の可能性も
現在の制度では、職位に応じて基本給が一律で決まる「職能基準給」と、評価によって決まる「職能個人給」の大きく2種類に基づいて給与が決まる。前者は、同じ職位の社員ならば定昇額が一律で同じになる一方、後者は同じ職位の社員でも評価によって定昇額に差が出る。
朝日新聞によると、トヨタ労組の定期大会が9月30日に開かれた。今年は全国の職場や在宅勤務の社員をつないだリモート開催だったようだが、第1号議案「新賃金制度への移行について」は満場一致で可決したという。
新たな仕組みでは、前述の基本給を評価に応じて決まる「職能給」に一本化する。定期昇給から一律部分がなくなり、4~6段階の評価によってのみ決まるようになる。
これまでと比べ、評価によって各社員の定昇額の差が広がりやすくなるのに加え、最低の場合は「定昇ゼロ」の可能性もあるという。だが、朝日新聞の取材によると「極めてまれなケース」(労組の担当者)のようだ。
また、21年4月の定期昇給からは、職位ごとの給料の上限額も撤廃される。これにより、どんな立場の社員でも、頑張ればその分給料が上がるようになる。なお、現行の給与水準は下がらないとしている。
「"単なる流行"で合わない制度を入れると問題が生じてしまう」と識者
終身雇用、年功序列などの日本企業独自の文化が薄れ、転職することが一般的になったことを受け、トヨタも実力主義に舵を切ったようだ。こうした風潮に、人材研究所の曽和利光代表は
「一律昇給には協調性やチームワークを重視することが背景にはあったと思うのですが、それよりも、抜きん出た成果を出す人を重視する傾向が出てきたのかと思います」
と印象を語る。曽和氏は「人件費の原資は一定です」と前置きし、一律部分をなくすことで"抜きん出た人"により多く配分できると効果を説明。トヨタの新制度については「逆に今まで一律昇給部分があったのか」と驚いた様子だった。
では、トヨタのような賃金制度は今後、国内企業に波及するのだろうか。曽和氏は「成果にダイレクトに連動して差をつける昇給制度と、平等性の高い昇給制度は古い新しいではなく、仕事のあり方に関係しています」と口火を切る。
「簡単に言えば、仕事の相互依存性の高いチームワークが重要な仕事が多い会社は平等性を尊び、仕事が自己完結して、一人ひとりの成果の差が大きく出るような自律性の高い仕事が多い会社は信賞必罰を尊ぶということだと思います」
つまり、今後の国内産業を考える上で、前者の多いメーカーなどから、後者の多い情報産業などにシフトするに従って、実力主義的な評価制度が自然に広がっていくという。
一方、曽和氏はあくまでも「仕事に適した制度にすることが重要」と釘を差す。
「"単なる流行"で合わない制度を入れると、問題が生じてしまうので危険です」
と警鐘を鳴らし、続けて「私は人事に古いも新しいもないと思っています」と強調した。
はてなブックマークでは「動向を注視したいが、本当に変わるのか?能力の低い人間に低い評価をつける覚悟があるのか」「これまでのもかなり考えられた評価マトリクスだったからどうなるか注視したい」と今後の動向に注目が集まっている。