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『ONE PIECE』“海侠のジンベエ”、なぜ麦わらの一味に必要? 戦力向上だけじゃない、その深い理由

2020年10月06日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ONE PIECE(97)』

 『ONE PIECE』最新刊である97巻の第976話にて、満を持して麦わらの一味に正式加入したジンベエ。船長であるルフィを含めると、記念すべき“10人目”の仲間だ。波乱万丈の「ワノ国編」において、現在の戦況にさらなる変革をもたらす存在となりそうだ。


参考:『ONE PIECE』ニコ・ロビンの戦闘力は?


 まずはここで改めて、ジンベエとは何者なのかを整理しておきたい。彼が正式に一味に加わることが判明した瞬間に驚いたのは、“最悪の世代”に位置づけられているトラファルガー・ローやユースタス・キッドだけでなく、いち読者である私たちも例外ではなかったはず。何せジンベエは、タイヨウの海賊団2代目船長であり、元・王下七武海だ。麦わらの一味によその海賊団の船長が加入するというのは、かつてウソップ海賊団を率いていたウソップに次いで二人目だが(ウソップ海賊団の実力は別として、これは「誇り」の問題である)、王下七武海の一角が加わるのは初めてのこと。いくら“元”とはいえ、七武海に選抜されるにはそれなりの理由がある。海軍の精鋭たちと互角に渡り合い、並み居る海賊たちを牽制できるほどの実力がなければ務まらない。ジンベエの実力はこれからさらに証明されるのだろうが、そのパワー以上に、七武海として実地経験で得てきた知識が一味にとって大きな武器となるだろう。


 そんなジンベエが麦わらの一味で務めるのは、“操舵手”というポジション。つまりは、サウザンドサニー号の操縦士である。これまでは航海士であるナミの指示に従い、みなで力を合わせて海を渡ってきたが、この操縦に関しては“行き当りばったり感”があったことは否めない。事実、ゴーイングメリー号などは傷だらけでもあった。メンバー10人目にしてようやく操舵手が加入するというのは、正直なところ遅かったとも言えるだろう。確実に航路をたどることができるだけでなく、用途に合わせて的確に船を操縦できる人材とは、これを手がけた船大工・フランキーにとっても願ってもない話だ。実際にフランキーは、「やっと“夢の船”の本領を引き出す男が現れたか」と口にしている。


 そのうえジンベエは“魚人”である。海水は彼の思うがまま。大海原を少人数で突き進む一味にとっては百人力だ。ルフィをはじめとする“悪魔の実の能力者”はもちろんのこと、クルーたちはたびたび海上で危ない目にも遭ってきたが、そのような機会も減るのではないだろうか。となれば、協力して海を渡ってきた彼らの気もゆるんでしまいそうなものだが、恐らくそんなことはない。これまでのジンベエの言動から推察できるのはもちろんのこと、くだんの登場シーンでもそれが示されている。彼は「お控えなすって!!!」に続く“仁義を切る”口上を述べながら登場したのだ。それはつまり、ジンベエが何よりも仁義を重んじる男だということである。あの残虐非道なビッグ・マム相手にさえ義理立てていたくらいだ。さすがは“海侠”という異名を取るだけの男。ゾロやサンジも仁義を重んじる男たちだが、“親分肌”のジンベエの加入によって、一味はさらなる結束力を得ることになるだろう。


 ジンベエが一味に加入することによって変わるのは、ここまでに記述してきたものだけではない。彼が必要な、さらに深い理由があるように思う。それはやはり彼が魚人という、これまで人間たちに虐げられてきた“被差別者”であるということだ。実力主義の大海賊時代において、異なる種族の者同士が手を組んでいることは珍しくはないが、ジンベエは“種族差別”という大きなトラウマを背負う象徴的な存在である。そんな彼が利害関係を超えたかたちでルフィの下についた事実は、今後の展開の中で大々的に取り上げられそうだ。


 それに、“魚人と人間”の関係で言えば、やはりナミとの関係性に目を向けないわけにはいかない。いまや完全にわだかまりがとけたが、ジンベエたち魚人がかつて人間たちから恐怖を植え付けられてきたように、ナミにとっては魚人がトラウマの対象である。彼はアーロンという部下を介して、間接的にナミに恐怖を与えていたのだ。しかしそのナミも、ジンベエ加入に対して黄色い声を上げている様子が描写されている。“海侠のジンベエ”の一味加入が世に与える驚きは、たんなる一味の飛躍的な戦力向上だけではないのだ。これから彼は、多くのものを『ONE PIECE』にもたらすに違いない。(折田侑駿)