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いよいよアニメ第3期開始! 『ダンまち』が熱狂的に支持され続ける理由とは?

2020年10月02日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 シリーズ累計発行部数が1200万部を超える大森藤ノの大人気ライトノベルが、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』シリーズだ。10月2日からテレビアニメの第3期が放送開始となり、強い冒険者になろうとダンジョンに挑み続ける少年、ベル・クラネルがぶつかった、かつてない事態が描かれる。小説の方も10月15日頃に本編の最新巻が出る予定。「ダンまち」シリーズがこれほどまでに支持され続けるのはなぜなのか?


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 第4回GA文庫大賞で初の大賞を獲得した大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』は、神様たちが退屈凌ぎに地上に降りては、【ファミリア】を作って配下の人間に力を与える代わりに、その力で稼いでもらい、食わせてもらう関係ができあがった世界が舞台のファンタジーだ。


 主人公の少年、ベル・クラネルも、オラリオという街にあるダンジョンを攻略し、美少女たちと仲良くなりたいと願って地方から出てきたが、実績がないベルを冒険者として迎え入れてくれる【ファミリア】は皆無。困って街をさまよっていたところ、誰も眷属を従えていなかったヘスティアという少女姿の神様に出会い、誘われて【ヘスティア・ファミリア】に入った。


 少年と神様の少女が二人三脚で成り上がっていく物語? そう思わせて展開は、冒険者となってダンジョンに入ったベルが、ミノタウロスに襲われ死にそうだったところを、アイズ・ヴァレンシュタインという最高レベルの美少女剣士に助けられ、一目ぼれしてしまう流れへ。「ダンジョンに出会いを求める」という願望が叶った瞬間だが、だからといってベルが、ヘスティアとアイズとの間で三角関係に浸るようなラブコメには落ち着かない。一人の少年が高みを目指して困難に立ち向かい、突破し成長していくドラマチックな展開へと突き進んでいく。


 アイズに近づきたいという一途な思いを抱き続ける間は、驚異的なスピードで強くなり、レベルをあげていくベル。チート能力に見えないこともないが、”俺TUEEE”のような物語とは違い、ベル本人が成長する意思を失わず、鍛錬を怠らず、純真であり続ける必要がある。どこまでもまっすぐに前を向いて走り続ける少年の思いの強さ、それがもたらす勇者としての成長ぶりを見て、自分もそうありたいと願うファンの気持ちを引きつけ、支持を集め続けているのだろう。


 そんなベルに惹かれて一人、また一人と集まってくる仲間たちも魅力的だ。ベルをカモにして金品を奪おうと近づいてきたサポーター(荷物持ち)の少女、リリルカ・アーデ。騙していたのに嫌わず、過去を清算しようと決意したときも一緒に戦ってくれたベルに心からの信頼を寄せる。魔剣を打つ腕を持ちながらも拒んできた鍛冶師のヴェルフ・クロッゾ。敬愛していた女神ヘファイストスの【ファミリア】を抜け、困難に直面したベルを助けようと【ヘスティア・ファミリア】に加わり、魔剣を打つ。


 女も男も引きつけるベルの魅力は、人間を嫌うエルフの女性の心も溶かす。”疾風”とあだ名されるほどの冒険者だったリュー・リオンは、過去に所属していたファミリアの仲間を、悪党の罠で失った怒りから復讐の鬼と化す。過去を隠し、ベルが通う酒場の店員となった後も、姿を現した仇を葬るために危地に向かったリューを、ベルは助けようとする。


 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか14』で、モンスターが無限に生み出される階層にベルと迷い込んだリューは、自分が犠牲になってベルを逃がそうとするが、ベルは戻ってきて2人で血路を開こうと奮戦する。ひん死となったベルに、リューが肌を寄せて温めようとする行為は、相手を信頼するようになったとしても、エルフにとっては相当の決意が必要だ。信頼を超える愛情を向けたくなるほど、ベルは魅力的だった。


 そして神様までも。美の女神としてオラリオに君臨するフレイヤは、【ファミリア】の一員でもないベルに御執心で、密かに守ったり、逆に配下の戦士をけしかけ鍛えて成長を促したりする。ベルをさらった【イシュタル・ファミリア】を叩きつぶしてイシュタルを天上へと送り返してしまったことも。そんなフレイヤが表紙に登場する最新巻『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか16』で、ベルの身にいったい何が起こるのか? 刊行が待ち遠しい。


 その前に、10月2日スタートのアニメ第3期で描かれるエピソードにも注目だ。ベルたち【ヘスティア・ファミリア】の元に、未知なる存在が舞い込んで来たところから、物語は幕を開ける。アニメのあらすじによれば、「それは、異端児(ゼノス)と呼ばれる言葉を解する怪物(モンスター)だった」。


 この世界でモンスターといえば、神様が用意したダンジョンで敵として倒されるだけの存在でしかなかった。冒険者は襲ってくるモンスターをひたすらに狩れば良かった。そこに言葉を解するモンスターが現れた。人間たちと意思疎通が可能で、自分たちが置かれている境遇も理解し、怯えたり怒ったりしている異端児たちを人間はどうするべきなのか。


 「『未知』は混乱を誘い、常識をも破壊し苦悩と葛藤を喚び起こす」とあるように、討伐すべきだという意見が大勢を占める中、ベルだけはヴィーネという名の異端児の少女を、仲間の元に返そうと奔走する。オラリオの人間たちすべてを敵に回してでも。


 恐れられ、差別される存在であっても、守り敬うべきだというベルの態度には、昨今の世界で様々な形で噴出しては、撤廃に向けて戦いが続けられている差別の問題に対する、ひとつの答えがある。自分を信じてくれていた仲間たちから疑われても、最愛のアイズから嫌われても、貫くべき信念がある。そうしたベルの行動が物語の先でもたらした可能性に、現実の社会も学ぶことが多そうだ。今というタイミングでこのエピソードが放送されることに、運命の巡り合わせを感じてしまう。見よう。そして原作を読もう。


(文=タニグチリウイチ)