2020年スーパーGT第4戦もてぎ WAKO’S 4CR GR Supra(大嶋和也/坪井翔) 「全然ダメですね。ここ数戦はレース後に何の満足感もなくヘコんでたんですけど、今日はもう笑っちゃうくらいダメでした」
首を横に振りながらレース後のパドックでそう語るのは、WAKO'S 4CR GR Supraの阿部和也エンジニアである。ウエイトハンデ48kgで臨んだ第4戦もてぎでは、予選9番手から決勝で4位。後半を担当した坪井翔が好バトルを見せてポジションを上げるシーンもあり、さぞマシンの状態も良いのでは……とピット裏を訪れたところ、陣営には意外や重たい空気が漂っていた。
チームの母体が変わったとはいえ、大嶋和也と阿部エンジニア、そして主要スタッフを昨年6号車から引き継ぐTGR TEAM WAKO'S ROOKIEは“実質のカーナンバー1”。今季も開幕から2戦連続で表彰台を獲得し、前半4戦を終えてトップから11点差のランキング5位は、目立たないながらも充分に“狙える”好ポジションと言えるが、マシンのセットアップには何ら手応えを感じられていないという。
「今回、新しいことをやったんですよ。別にここまでも悪くはなかったけど、もっと他の走らせ方ができないかなと思って、トライしてみたんです」
新規定と新車が導入された2020年、GRスープラ勢は開幕戦で上位5台独占という最高のスタートを切った。しかしその後はホンダNSX-GTも目立つ速さを見せ、ニッサンGT-Rにも優勝を許している。ランキングではKEIHIN NSX-GTがトップに立った。
そんな状況のなか「開幕で速かったならそのままの状態で走れ、って意見もあると思うけど、それだと今年のタイトルとか、来年・再来年は“ない”んじゃないかと思うんです」というのが、阿部エンジニアの考え方だ。
「まだクルマも1年目だし、長い目で見て、いまのうちからやることをやっておかないと、という気がしていて。開発テスト(タイヤメーカーテスト)もウチは呼ばれないですし、レースウイークにいろいろとトライを入れていかなきゃいけない」
トライしても失敗すれば、周囲からは「何をやっているんだ」という声が挙がる。
「でも、それを言ってたら進まない。ダメなこともあるかもしれないけど、ダメなりに気づくこともあるから、トライしていかなければと常々思っています」
GRスープラの良さをうまく活かせるセットアップの“味付け”が、サーキットごとに存在するのではないか。阿部エンジニアはそのスイートスポットを模索するが、もてぎでは予選日からスピードがなく、黄旗の影響もあったとはいえQ1突破は果たせなかった。
決勝日はその路線を「もう少し詰めた」セットアップで臨んだが、ウォームアップ走行でも感触が悪く「結構ドタバタしてしまい、またグリッドでダンパーとか替えてしまって。すごい変えましたよ、スタビだとか車高とかも……」と阿部エンジニア。
レースではミスのないピット作業と、ピット後GT300のトラフィックがない位置に出られたこと、そしてそのタイヤのウォームアップも良かったことで、ポジションを上げることができたものの、多くの課題が残った。
今季から採用されたクラス1車両では、床下の空力やサスペンションアーム、アップライトまでもが完全に共通化され、各チームが独自に施せるセットアップの幅は狭まりつつある。その難しさについて阿部エンジニアは、「自分としては『触れないのが嫌だ』というのもあるんです」という。
「バンプラバーにも規制が入り、『本当はこれを使いたいけど無理だから、どうやって成り立たせよう……』みたいな部分もある。今季のレギュレーションには、そういう難しさがありますね」
ここまでのランキング5位という結果は阿部エンジニアいわく「ドライバーふたりの頑張りでしかない」という。
その大嶋も、もてぎでのクルマには当然納得していない。「よくこのクルマで、この順位でゴールできたなと思う」とまで言う。
大嶋の見立てでは「新しいことにトライしている部分と、今回の不調は別問題かもしれない」という。ただ、もてぎでは「いままでと違うタイヤ」を使ったこともあり、その影響もあったかもしれず、2019年王者も確証を持てずにいるようだ。
「セットなのかなぁ……正直、分からないです。帰っていろいろとデータを見て、(第5戦の)富士で全部元に戻せば問題ないと思う」(大嶋)
開幕戦での感触の良かった状態に戻れば、ある程度戦えるかもしれない。だが、それだと「その先」につながらない。ディフェンディングチャンピオンはいま、大きなジレンマを抱えながら苦闘を続けている。
「あー、マジでヤバい」
阿部エンジニアは、去り際にもそう呟き首を振った。