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コロナショックでも、安易にリストラをしてはいけない理由

2020年09月29日 07:20  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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東京商工リサーチの調査によれば、2020年上半期で早期・希望退職募集(いわゆるリストラ)の実施を表明した上場企業は41社でした。過去5年間の上半期は20社を超えることがなかったので、ここ数年の2倍以上の数です。

過去に国際通貨危機やリーマンショックなどの大規模な経済的問題が起こった際には、翌年に早期・希望退職が急増する傾向がありました。このことを考えると、今回のコロナ禍によるリストラは、これから本格化する可能性が高いと考えられます。

業種・業態によっては「背に腹は代えられない」ということで、その後のデメリットがどれだけ大きくても、リストラ以外の方法を採れないのであれば仕方がありません。しかしそれ以外の会社では、安易なリストラが大きなリスクとなることを踏まえておくべきです。(人材研究所代表・曽和利光)

組織に深い傷を残すリストラ

まずリストラは、組織に深い傷を残します。企業は生き延びたとしても「結局、会社は社員に対してとても冷たい」と、残った人のロイヤルティ(忠誠心)を失ってしまいます。去った人も、元の組織に悪い印象を持ったままあらゆる世界に広がっていくわけで、企業のブランドを毀損するかもしれません。

最も大きな問題は、早期・希望退職の募集は「よい人から辞めていく」可能性があるということです。事業が傾いているのに、立て直しに尽力してもらいたい人から次々辞めていくことになれば、沈没しかけの船はそのまま海の底に沈んでしまいます。

よい人から辞めていく理由はいくつもあります。まずは有能だからこそ、将来性ある企業に転職しやすいためです。自社のまずい状態をよく理解しており、しがみつくより、もっとよいチャンスが外の世界にあるのがわかるということもあります。

レベルの高いAクラスの人は、Aクラスの人と一緒に働くことを望むので、よい人の退職は雪だるま式に加速するかもしれません。組織の人材レベルは、一度落ちるとなかなか上がりません。Bクラスの人は、自分より下のCクラスの人と働くことを好むからです。そうして人のレベルはどんどん落ちていきます。

会社は人材を十分に活かしきれているか

また、リストラには希望退職の募集以外に、会社にとって過剰だったりコア人材から外れていたりする人に対して、事実上の退職勧奨を行う場合もあります。

しかし、リストラ対象というとダメな人のように思われがちですが、そんなことはありません。単に会社が人材を十分に活かしきれなかったということも少なくありません。

たとえば、かつて日用雑貨の製造販売が中心だったアイリスオーヤマ(仙台市)は、ある時期から大企業のリストラ組に焦点を当てて採用を行うことで、新興家電企業として著しい成長を遂げています。リストラ対象者の中には、宝が埋まっていたのです。

企業で出世する能力(例えば、組織を統率する能力)と、新しいことを生み出せる能力は異なります。極端にいえば、真逆かもしれません。「異端児が新しいものを生み出す」のはよくあることなのです。

経営危機に陥った企業が本当はすべきこと

つまり、経営危機に際して最初にすべきは、人を切ることではありません。むしろ、頭を振り絞って考えて、大切な人材を流出させないようにすることではないでしょうか。

社内に埋もれた人材がいないか、平時には見向きもされなかったアイデアが眠っていないか、組織の構造や人の組み合わせを変えることで生産性を向上できないか、何でもいいので売れるものはないのか――。こういう発想が、経営危機に直面した会社を強くします。

経営が危ないからといって安易にリストラを行うことは、組織論の観点からは決して良策とは言えません。むしろ、じわじわと死に向かう道となります。コロナ禍に乗じてリストラをするような企業に、未来はないのではないかと思います。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/