今年の第10戦ロシアGPでレースの明暗を分けた最大の出来事は、ルイス・ハミルトン(メルセデス)へのふたつのペナルティだったことは間違いない。
レーススタート前のレコノサンスラップでハミルトンはほかのドライバー同様、ピットレーン出口付近でスタート練習を行ったのだが、その位置が正しくなかったとして、スタート前にFIAから審議の対象になっているとの通知を受けた。FIAからの連絡を受け、レース審議委員会が下した裁定は、5秒のタイムペナルティだった。
その裁定が発表されたのは、レース7周目のことだったが、驚いたのはハミルトンにペナルティがふたつ下されていたことだった。
レース中にFIAから出されたペナルティのリリースを見ても、時刻とペナルティポイント以外は同じで、理由は完全に同じ文面となっていた。そのため、多くのメディアはハミルトンが2回違法な場所でスタート練習をしたと勘違いした。
レース後、トト・ウォルフ代表はふたつのペナルティに関して、こう説明した。
「ひとつは正しくない場所でスタート練習したことで、もうひとつはレコノサンスラップの速度が一定でなかったというものだった」
ペナルティのリリースの理由を確認すると、『イベントノート・バージョン3の第19条1項』と『スポーティングレギュレーションの第36条1項』に違反していると明記されている。
まずイベントノートとは、レースディレクターがグランプリごとに発行するレースを行うにあたっての注意書きだ。コースリミット(コース外走行)場所や範囲などレギュレーションに記載できないサーキットごとの規則が明記されており、違反すればペナルティの対象となる。
その第19条1項の内容がこうだ。
第19条 スタート練習
1項「スタート練習は、ピット出口の信号が青信号となり、ピット出口がオープンになった後、いつでも行うことができる。その場所はピット出口の信号の右側のエリアでのみ行うことができる。その際、ドライバーはピットレーンを走行してくる他車が追い越せるよう、左側に十分なスペースを残さなければならない」
メルセデス陣営は「イベントノートには『ピット出口の信号の右側のエリア』としか書いておらず、明確な位置が提示されていない」(トト・ウォルフ代表)と納得できない様子だが、ハミルトンがスタート練習を行った場所は、「ピット出口の信号の右側のエリア」から100m以上も離れた場所。ピット出口という解釈から大きく逸脱している。映像を見ただけではわからないという方のために、地図上で示したので見てほしい。
もうひとつの違反となった『レコノサンスラップの速度が一定でなかった』というのは、スポーティングレギュレーションの第36条1項で、そこにはこう書かれている。
第36条 スタート手順
1項「フォーメーションラップ開始40分前に、ピット出口は開放され、ピットレーンからレースをスタートすることが求められる車両を含めたすべての車両はピットレーンから離れることが認められ、レコノサンスラップ走行を1周行う」
「レコノサンスラップを2周以上行うことを希望するドライバーは、各ラップとラップの間にピットレーンを十分減速しながら通過しなければならない。レコノサンスラップ中にピットにストップしたドライバーの車両は、当該ドライバーのガレージから出た場合にのみトラックに復帰でき、ピットストップ位置からはそれを行うことはできない」
「これらの周回後、グリッドからレースをスタートするすべての車両はスタート順にグリッドに着き、エンジンを切って停止する」
「この時ピット出口に行こうとするすべてのドライバーは一定の速度で一定のスロットルで進まなければならない。これは、ドライバーが自己のガレージからピット出口へ進もうとしている、あるいはレコノサンスラップの間でピットレーンを通過する場合のいずれであってもピットレーン全域に適用される」
「レコノサンスラップを完了せずグリッドに自力で到着しない一切の車両は、グリッドからレースをスタートすることは認められない」
つまり、ピットレーンを出たハミルトンの車両は、レコノサンスラップを開始したとみなされ、その場合、ハミルトンは定の速度で一定のスロットルで進まなければならないのだが、ハミルトンはピットロードが本コースに合流する地点でスタート練習するために一時停止した。これは重大なレギュレーション違反となった。
それに対する5秒のペナルティが妥当かどうかという議論は置いておいて、ハミルトンがスタート前に2つの異なる違反を犯していたことは紛れもない事実だった。