2020年09月27日 10:01 弁護士ドットコム
「亡くなった兄の借金は払わなくてはならないのでしょうか」。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられている。
【関連記事:路線バスに「行かないで!」追いついても何故、乗せてくれない? 】
相談者によると、4カ月前に亡くなった兄宛ての借金の督促状が自宅に届いたという。
その後、相談者は郵便物の受け取りを拒否したが、このまま放置したままでよいのか悩んでいるという。なお相談者は、兄の連帯保証人になってはいないそうだ。
相談者は「相続人」として兄の借金を支払う義務はあるのだろうか。山岸陽平弁護士は、次のように説明する。
「兄が死亡した時点で相談者が相続人となるのは、兄に子どもがおらず、両親がすでに死亡している場合に限られています。
ただし、兄の子どもや両親が相続放棄をした場合には、相続権が相談者ら兄弟姉妹にまわってくることになります。
相続放棄は、被相続人の死亡を知り、かつ、自分が相続人になったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申請する必要があります。この3か月を『熟慮期間』といいます。
3か月では判断できなさそうな場合には、熟慮期間を延長してもらうよう申し立てることが可能です」
では、熟慮期間が経過してしまった場合はどうなるのだろうか。
山岸弁護士は「基本的に相続放棄をすることはできません」と語る。しかし、場合によっては相続放棄が認められるケースもあるそうだ。
「被相続人にプラス・マイナスの相続財産がまったく存在しないと信じたために相続放棄をしなかったのであり、また、そう信じることに相当な理由があると認められる場合には、熟慮期間は(1)相続財産の全部または一部を認識したときか、(2)認識できるはずのとき、からスタートすると示した最高裁判例があります。
よって、相続放棄が認められるかはケースバイケースで、兄の生活状況や兄との交際状況などの詳細な事情によります。
仮に兄の連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしたとしても、保証債務の請求を受けることになります」
もし、相続放棄をした後や手続中に借金の督促状が届いた場合はどうすればよいのだろうか。
山岸弁護士は、次のようにアドバイスする。
「相続放棄が家庭裁判所で認められたのであれば、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書の発行をしてもらえますので、これを債権者に送りましょう。
相続放棄の手続中や、手続に向けて準備中で、相続放棄を受け付けてもらえないかもしれないといった特別な事情がない場合には、債権者に『手続に取りかかっているところ』だとお答えになっても差し支えないでしょう」
【取材協力弁護士】
山岸 陽平(やまぎし・ようへい)弁護士
金沢弁護士会所属。2020年度金沢弁護士会副会長。富山県南砺市出身。京都大学法学部卒・京都大学法科大学院修了。弁護士のほか社会福祉士資格を有し、福祉・医療をめぐる法律問題に関心が強い。相続(訴訟案件を含む)、離婚、成年後見、交通事故、インターネット関係問題など、地域や企業の困りごと解決を手掛けている。
事務所名:金沢法律事務所
事務所URL:https://www.bengokanazawa.jp/