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アルコール依存症、診断されても「いや、まさか」と否定 漫画家・まんきつさんが気が付いた「さみしさ」と断酒を支える「癒し」

2020年09月25日 10:31  弁護士ドットコム

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アルコール依存症と診断され、酒をやめられずに苦しんだ経験をもつ漫画家のまんきつ(改名前のペンネーム:まんしゅうきつこ)さん。


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自らの体験を綴ったノンフィクション漫画『アル中ワンダーランド』(扶桑社)が文庫化され、9月25日に発売される。



同漫画は2015年に発表され、累計7万部のヒット作。文庫版には、描き下ろしおまけ漫画「その後のアル中」や、小説家の吉本ばななさんとの特別対談もおさめられている。



回復の道を歩み、現在は酒をやめて約1年になるというまんきつさんに、話を聞いた。(編集部・吉田緑)



●ブログへの誹謗中傷、仕事の悩みなどが「一気にきた」

ーーもともと、お酒は強かったのですか。



いえ、そんなことはありません。お酒もあまり好きではなかったです。自分から飲むというよりは、付き合いで2~3杯飲む程度でした。



ただ、家族にお酒を飲む人はいました。父はお酒を毎晩飲んでいましたし、叔父はアルコール依存症でした。叔父は60歳のときに肝硬変で亡くなっています。



ーーお酒がやめられなくなったキッカケはなんですか。



2012年5月にブログ(『まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど』)を開設し、それから漫画やイラストの仕事をいただくようになりました。でもネタがなくなり、悩むことが増えたんです。



ブログにも「早く死んでほしい」など、暴言の嵐がくるようになりました。コメント欄を閉鎖したときは「コメント欄を閉じてズルい」というメッセージもありました。「応援しています」という嬉しいコメントをいただくこともありましたが、暴言がくると嬉しさがかき消されてしまうんですよね。



暴言、仕事が一気にきたという状態で。ブログを開設して3、4カ月後ぐらいからお酒を飲み出すようになりました。悲しいことがあると飲む、という状態でした。



●「アルコール依存症」と診断されて…

ーー病院に行こうと思ったのはなぜですか。



お酒を飲みたくないと思ってもやめられませんでしたし、記憶をなくしたり、幻覚(幻聴)に悩まされたりすることもありました。



フェイクプレーン(飛行機に擬態しているUFO)が語りかけてくることもありましたね。とにかく「誰かに助けてほしい」と思っていました。



家族に何度も行くように言われて、2014年に病院を受診しました。叔父が亡くなっているので、父は私のことを「あいつも死ぬぞ」と言っていたようです。





受診した病院で「アルコール依存症」と診断されたときは「この程度で?うそ!絶対ちがうでしょ。酒飲みはいっぱいいる」と思いました。



治療につながり、しばらくお酒をやめられたものの、スリップ(編注:再び飲酒してしまうこと。依存症からの回復過程でよく起きる)してしまったんです。本(『アル中ワンダーランド』単行本)を出した後のことでした。それからスリップを繰り返すようになって、またお酒をやめられなくなってしまいました。



そこでアルコール専門の病院に行ったところ、ここでも「アルコール依存症」と言われて。このときも「いや、まさか!」と否定する自分がいましたね。



医師には、依存症は「否認の病」(編注:自分が「依存症」であると認めないこと)といわれましたが、私もそうでした。



ーー漫画には「断酒会」(アルコール依存症の自助グループ)に参加されるシーンも描かれていますよね。



断酒会には2回行きましたが、行ってよかったです。「仲間がいる」という仲間意識を感じることができました。また、うまく喋れなかったり、震えが止まらなかったりする方などもいて、「飲み続けるとこわい」「やめよう」という気持ちにもなれました。



今は断酒会には行っていませんが、カウンセリングに通っています。また、医師にすすめられ、別の自助グループへの参加を検討しているところです。



●「私はさみしい」という気づき

ーーアルコールをやめられずに悩んでいる方から漫画を読んでメッセージなどをもらうことはありますか。



当事者の方から「漫画を読んで、私はアルコール依存症かもしれないと思いました。治療を受けようと考えています」という手紙をいただいたことがあります。



当事者の中には、そもそも自分がアルコール依存症だと気づいていなかったり、「病院に行くと2度と飲めない」と思っていたりして、治療につながらない人もいます。



そのため、この本が受診の1つのきっかけになってくれれば、とも思っています。



私なんかが「誰かを元気づけたい」なんておこがましいかもしれませんが、誰かの役に立てたのならばこれほど嬉しいことはありません。そのことによって、私も救われています。





ーーまんきつさんが回復の道を歩むうえで、実際におこなっていることや大切だと思うことについて教えていただけますか。



「気づき」は大切だなと感じます。



私の場合は「さみしくて(お酒を)飲んでいた」ということに気づきました。「さみしさ」は厄介です。「憎しみ」はバネになることもありますが、「さみしさ」はポジティブに変換されずに内に入り込んでくる感情だなと思うんです。



また、自分が抱えている「生きづらさ」にも気づけました。「私が生きづらいのはなぜなんだろう?」と原因を考えてみると、幼少期にさかのぼるんです。私は昔から「私」を演じていた、「本当の自分」は違う…などということに気づけました。



このような気づきを通して、ようやく肉体とこころが一致した感覚です。「自分がどういう人間なのか」は、意外と自分では分からないんですよね。「本当の自分に気づくこと」「本当の自分を知ること」は、回復の道を歩むうえで大切なことなのではないかなと思います。



今の息抜きはサウナやジムに行くこと、そして犬と過ごすことです。お酒を飲む以外の「抜け道」「癒し」ができました。おかげで、お酒を飲んでいたころよりも毎日を楽しめるようになったと感じています。




<まんきつ(旧ペンネーム:まんしゅうきつこ)さんプロフィール>
漫画家。1975年、埼玉県生まれ。
2012年に始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目され、2015年には自身初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。2019年にペンネームを、「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名した。著書に『ハルモヤさん』(新潮社)、『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)などがある。