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欠点なしで逆に困る? トヨタ「ヤリス クロス」に乗ってみた、聞いてみた

2020年09月23日 10:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
「どこかに突っ込みを入れたいけど、欠点らしい欠点が見当たらない……」。トヨタ自動車の新型コンパクトSUV「ヤリス クロス」は、試乗会で開発者インタビューに苦労する(?)珍しいタイプのクルマだった。試乗記と開発者との対話は以下の通りだ。

ヤリス クロスはトヨタがデザイン、走り、ユーティリティ、安心・安全の全ての要件を兼ね備えたコンパクトSUVとして開発した新商品。デビュー後1週間ほどで月販目標予定(4,100台)の5倍近い約2万台を受注した大人気モデルだ。横浜で開催された試乗会では、ハイブリッド(HV)とガソリンエンジンで2WD(前輪駆動=FF)と4WDの両方を試し、開発者にも話を聞いてみた。
○ハイブリッドは街中なら十分以上

最初に乗ったのは、このクルマで最も売れると思われるHVの2WD。グレードはトップモデルの「Z」だ。Bセグメント用のTNGA「GA-B」プラットフォームを採用したボディサイズは、全長4,180mm、全幅1,765mm、全高1,590mm。同じシャシーを共有する「ヤリス」より240mm長く、70mm広く、90mm高い。

試乗車のボディカラーはホワイトパールクリスタルシャインのボディにブラックマイカのルーフという2トーンで、ありきたりな表現だがとってもカッコいい。その白黒カラーと、つり目にちょっとアゴが出っ張ったような顔つきは、映画『スターウォーズ』に登場するストームトルーパーを思い出させた。

ドアを開けると、ブラウンの合皮とツイード調のファブリックを組み合わせた渋目のシートがお出迎え。最低地上高は170mmと普通車より少し高いだけなので、乗り込みに苦労することはない。とはいえ、ドライバーズシートに収まると目線が高く、ちょっと閉塞感のあったヤリスに比べてウエストラインが低いので、広い視界が確保されているのがわかる。

搭載するのは91PS(67kW)/120Nmの1.5リッター3気筒「M15A-FXE」ダイナミックフォースエンジンに80PS(59kW)/141Nmのフロントモーターという組み合わせのリダクション機構付きTHSⅡパワートレーン。車重は1,190キロとこの手の車の中では軽く、出だしからスイッと押し出してくれる感じで誠に気持ちが良い。一定速度からの再加速時もアクセルのつきがよく、街中での走りなら十分以上の動力性能を持っている。

215/50R18という大径のタイヤは目地段差でちょっとショックを伝えてくるけれども、ボディ剛性の高さがそれをきちんと押さえ込んでいる感じ。後席の足元もヤリスに比べて広くなっていて、これなら長時間乗っていてもパッセンジャーから不満は出ないのではないだろうか。

凹凸の少ない荷室は容量390L。会場に用意してあった大型のスーツケース2個は余裕で積み込むことができた。ドアはキックモーションで開閉できる「ハンズフリーパワーバックドア」。4:2:4の分割リアシートや6:4のアジャスタブルデッキボードを工夫すれば、なんでも載せられそうだ。

Zグレードに標準の大型オプティトロンメーターを見ると、チョイ乗りばかりを繰り返した試乗でも燃費は20km/L近くを表示していた。あれれ、欠点が見つからないではないか。

○ハイブリッドの4WDは雪国の最適解?

次は電気式4WDシステム「E-Four」を登載するHVの「Z」グレード。こちらはシルバーメタリックのボディーにブラックルーフの2トーンで、内装は前の2WDモデルと同じブラウン合皮/ツイードファブリックだった。パワートレインは前出のTHSⅡだが、リアに5.3PS(3.9kW)/5.2Nmのモーターを追加して電気式の4WDシステムとしている。

スタートすると、発進時にはリアモーターがアシストしてくれるので出だしが力強く、街中の走りでは80キロほど増えた車重のせいで全体に落ち着きが出て、舗装工事中の荒れた路面や段差でも後ろが跳ねる感じがしないのがいい。

シフトレバー下にはE-Four専用のモードダイヤルがあり、「TRAIL」と「SNOW」の2つのモードが選択できる。TRAILモードは悪路でスタックした時の脱出用で、SNOWはもちろん雪道用だ(こちらの詳細はオフロード走行編でどうぞ)。

4WDシステムは小型なので積載能力に変わりはなく、試乗中は20km/L超えと燃費がそれほど落ちるわけでもない。となると、北海道など、積雪が多く長距離移動が多いシチュエーションで使用するユーザーには、E-Fourがベストな選択といえるだろう。

○ガソリンモデル4WDで広がる行動範囲

最後のガソリンモデルはシンプルなFFの「G」モデル。シルバーの外装にブラックのファブリックインテリア、双眼鏡のようなデザインのデジタルメーターという組み合わせで、搭載する1.5Lリッター3気筒「M15A-FKS」ダイナミックフォースエンジンは120PS(88kW)/145Nmを発生する。

3気筒エンジンは発進時や加速時にそれらしい音がして少し興醒めするが、1,120キロと軽い車重をいかした走り自体はとてもいい。トランスミッションはCVTだが、パーシャル状態から軽くアクセルを踏んだ時にボディの動きがきちんとリンクしていて、昔のそれとはまるで違う走りを見せてくれた。

試乗会場に用意された疑似オフロードコースでは、ブラスゴールドメタリックのガソリン4WDモデルにも乗り、専用のマルチテレインセレクトを試してみた(これもオフロード編参照)。こちらは上位モデルの「RAV4」と同じシステムで、モーグルや岩場など凹凸の大きい場所用の「ROCK & DIRT」と、砂浜や泥ねい地など滑りやすい路面用の「MUD & SAND」の2つを選択することができる。ヤリス クロスで行動範囲を広げたいユーザーにはこちらがお勧めだ。

○小さなクルマに詰め込みすぎ? チーフエンジニアを直撃

このように、あまり突っ込みどころのないヤリス クロスなのだが、作り手はどんな思いを込めたのだろうか。チーフエンジニアを務めたトヨタ自動車 TC製品企画の末沢泰謙さんに話を聞いてみた。

――開発で大変だったのは。

見晴らしの良さを担保できる一方で、重心が高いので、運動性能面でバランスを取るのがSUVの大変なところです。ヤリス クロスは「プリウス」から始まったTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の「C」「K」「ラグジュアリー」に続く「B」プラットフォームを使っていますから、これまでに課題をクリアしてきた知見を活用できました。社内で良いサイクルが回っていて、設計、開発の「やり方」「要点」のようなものがうまく伝わり、進化しています。それらを駆使することで、ヤリス クロスを高いレベルに持っていくことができました。苦労というよりも、達成する喜びがあったんです。

――ヤリスとの違いは。

ヤリスとは並行開発していたので、違いを平たくいうと上(ボディ)を変えただけです。パワーユニットも同じなのですが、ヤリス クロスの方が100キロほど重いので、ファイナルのギア比だけは変えています。そのため、燃費は5km/Lほど下がるかもしれません。といっても、ヤリス クロスもハイブリッドの2WDモデルだと30km/Lを超えているんですけどね(笑)

――ライバルの多いジャンルですが、こだわった点は。

SUVなので、一番はバンパーを擦らないこと。林道、砂利道、岩場、雪道などの悪路だけでなく、都会にも急角度の駐車場やコンビニのタイヤ留めなどがありますが、クルマをカッコよくした結果、ボディが地面に当たってしまうのでは意味がありません。

デザイナーはフロントをなるべく高くしたいと考えたのですが、技術者側からは、衝突安全のためアゴを低く前に出し、ヒトにぶつかった際、人の体を上に持ち上げるようにしたいという意見が出ました。上げたいというデザイナーの意見と下げたいという技術者の意見を聞いて、いい塩梅(あんばい)にまとめたのが今の形です。

――ボディーやインテリアの色使いは、かなり渋めですね?

ライバル社にはかなりカラフルな色の用意もありますが、ヤリス クロスは地味な色が多いといわれています。ビビッドな赤や黄色はカタログ映えがするのですが、実際に蓋を開けてみると、そういったカラーを選ぶユーザーは少ないのが現状です。ただ、お客様の意見を伺って、特別仕様などで派手な色を出す可能性はあります。カラーというのは難しいですね。

――トヨタのSUVラインアップはかなり充実しましたが、客の取り合いにはならないのでしょうか。

最初はめちゃめちゃ心配しましたが、今は市場全体がSUVに動いているんです。発売2週間の現状としては、「プリウス」や「アクア」などのセダン、ハッチバックから、しかも、HVの代替えとしてお客様がいらっしゃっています。SUVからではないんです。

いろんなものを積むことができて、普段は行けないようなところまで行って遊べて、ランニングコストもいい。そして値段も手頃。そんな目的を全長4mちょっとのヤリス クロスで達成するのが狙いでした。「デザインと機能を両立しているし、ひょっとしたらこれくらいのサイズが一番なのかも」と思ってもらえたら嬉しいです。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)