2020年09月21日 09:11 弁護士ドットコム
客に無理な要求をされ、困っている店員もいる。中には、対応できないことを説明すると逆ギレする客もいるようだ。
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弁護士ドットコムにも、客に無理な要求をされたという人が相談を寄せている。相談者が電話口でどうしても要求には応じられないと説明したところ、客に「対応が悪い!ネットで晒してやるから覚えておけよ」と言われたという。
ネット上にも「騒いでいる客を注意したら逆ギレされた。動画撮影を始めて『ネットに晒してやる』と言われた」「逆ギレした客に、名前は覚えたからネットに書き込んでやると言われた」という投稿がみられる。
このような客の言動は犯罪にあたるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。
ーー「ネットに晒すぞ(書き込むぞ)」という客の言動は脅迫罪にあたるのでしょうか。
「脅迫罪が成立する可能性はあります。脅迫は、他人の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知する行為です(刑法222条)。
ネットに悪評を書き込まれたり、氏名や顔などの個人情報を晒されたりすれば、名誉やプライバシーが侵害されることになります。そのため、『ネットに晒す』旨の発言は脅迫にあたりうる行為といえます。
もっとも、脅迫罪における『害を加える旨の告知』は、人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならず、人を困惑させたり不安感を与えたりする程度にとどまるものは『脅迫』にはなりません。つまり、単なるいやがらせ等は脅迫にはならないということです。
人を畏怖させるに足りる程度に至っているかどうかの判断にあたっては、行為の背景、その場の雰囲気、告知の行われた前後の事情、行為者と相手方の事情などの客観的状況に照らして、発言内容等が具体的にどのような意味を持っていたかを把握する必要があります。
今回のケースにおける発言についても、これらの客観的状況を考慮した上で脅迫への該当性が判断されることになります」
ーーもし、実際に客がネット上に書き込んだ場合、客の行為は犯罪にあたる可能性もあるのでしょうか。
「書き込みの内容が人の社会的評価を低下させるようなものであれば、名誉毀損罪(刑法230条)にあたる可能性があります。
そのほか、書き込みの内容によっては、脅迫罪(同法222条)、信用毀損罪(同法233条前段)や業務妨害罪(同法233条後段、234条)等が問題となることもあります。
また、このような刑事責任とは別に、書き込みをした者は民事上の不法行為責任(損害賠償責任)を負います(民法709条)」
ーー実際にネット上に書き込まれた場合、どのように対応すべきでしょうか。
「ネットに誹謗中傷や脅迫などを内容とする書き込みを発見した場合、すみやかに弁護士に相談し、発信者情報(書き込みをした者の氏名・住所等の情報)開示請求、損害賠償請求や刑事告訴の可否等を検討すべきです。
企業等においては、事実関係や書き込みに対するネット上の反応を踏まえた上で、プレスリリースによる反論等の要否も検討することになるでしょう」
【取材協力弁護士】
近藤 暁(こんどう・あき)弁護士
2007年弁護士登録(東京弁護士会、インターネット法律研究部)。IT・インターネット、スポーツやエンターテインメントに関する法務を取り扱うほか、近時はスタートアップやベンチャー企業の顧問業務にも力を入れている。
事務所名:近藤暁法律事務所
事務所URL:http://kondo-law.com/