部下からの「今年度いっぱいで、会社を辞めようかと思っているのですが……」という相談。管理職の皆さんであればこの局面に一度や二度は遭遇したことがあるのではないでしょうか。そんな時、どのような対応をされていますか?
今回は、突然の退職の申し出の際に、どのような対応をしていくべきかについて綴ってまいります。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
“アダプタビリティ”を上げることが職場への定着率向上に
退職の最大原因には“人間関係”が多くあげられます。退職の申し出の際に、その理由を聞いてみると、「家庭の事情で……」とか「やりたいことが見つかったので……」といったことがよく聞こえてきますが、その実は上司や同僚との人間関係であることがほとんどです。
突然の退職を減らすためには、職場のより良い人間関係を構築していくことが必要です。このことに関しては、これまでの記事でもお伝えしていますが、もう一つの大切なポイントである“アダプタビリティの低下”から今回は考えていきたいと思います。
“アダプタビリティ”とは「順応できる」という意味で、キャリア面においては、仕事における様々な状況に直面したときに、その変化を柔軟に受け入れて、適応していける能力のことをいいます。キャリア論の世界ではドナルド・E/スーパーが提唱し、この研究をマーク・サビカスが引き継いでいます。
アダプタビリティが高ければ、目の前の仕事にやりがいを感じ、職業人生を楽しいものにしていくことができ、職場への定着率向上に繋がっていきます。
たとえば、「目の前の仕事に対し、自らが変わることによってやりがいを感じられる状況をつくる」「目的を持って自身が変化することが出来る」というようなことが可能となります。
逆にアダプタビリティが低ければ、現在の仕事にやりがいを感じることが出来ずに、退職に繋がってしまうのです。
普段の業務を“作業”から“意義ある仕事”にしていく
部下自身がアダプタビリティを高め、仕事へのやりがいを感じてもらうためにはどうすればいいのか。定期的に以下の5つのステップを行う時間をとってみてください。
1.部下自身が自己内省をし、自身の強みや価値観を明確にする。
2.現在やっている仕事を箇条書きで出してもらう。
3.会社のビジョンやミッションを再確認してもらう。
4.現在の仕事が自身の価値観をどの様に満たすのかをリストアップしてもらう。そして、その価値観を満たすためにはどう働けばいいのか、自分の強みをどう仕事に活かせばいいのか、現在の仕事で更に伸ばすべき・獲得すべき強みは何かを挙げてもらう。
5.会社のビジョンやミッションを果たすことが、どのように自身の価値観を満たすのかリストアップしてもらう。
ようは“作業”になってしまっている仕事を、自身の生きる目的や働く意義に繋げてもらうということです。普段から行うのももちろん、退職の相談の際でもやってみてください。
そうすると“作業”が“意義ある仕事”に変化し、仕事に自らの能力が生き、自らが大切にしている価値観を感じられるようになり、アダプタビリティは向上していきます。アダプタビリティが向上すれば、メンバーのやる気は向上します。そして、職場の定着率の向上と業績向上に繋がっていくのです。
まずは上司自らがアダプタビリティを高める5つのステップを実施してみましょう。その中で感じた自身の変化を部下に伝えながら、部下のアダプタビリティの向上を支援していくのです。
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。