もしも、桃太郎がブラックバイトの店長だったら――。全国社会保険労務士連合会が開設したサイト「僕たちの悩み、きいてください」がネット上で話題になっている。
学生アルバイトの労働条件改善に向けた広報活動の一環として2年前に開設。雇い主の桃太郎の下で働く、犬のペロ、サルの遠藤さん、キジのチュン助がアルバイトという設定で、ブラックバイトに悩む3匹の"お供"が体験した9つのエピソードを紹介している。
桃太郎のパワハラに苦しむ3匹を救ったのはまさかの「赤鬼」
「僕たちの悩み、きいてください…」と訴える3匹のエピソードは、どれも実際の体験談を元に作成されている。例えば、桃太郎がペロに「なんでできねーんだよ!」と叱責したり、退職願を出す遠藤さんに対して「辞めたいなら代わり探してきて」と吐き捨てたり、といった具合だ。
こうした事例を挙げ、叱責だけでなく、過度な仕事の無理強いや、逆に仕事を与えないこともパワハラの対象になることを説明。さらに退職を止める権利は会社になく、契約期間が定められていない場合は2週間前に辞める旨を伝えれば、法律上辞められること、などと解説している。
通常の支援サイトならば、これだけで終わりそうなものだが、同サイトにはしっかりとした"オチ"も付いている。ブラック店長の桃太郎に頭を抱える3匹に手を差し伸べたのは、なんと赤鬼。昔話では悪役として登場するが、同サイトでは3匹の救世主になっている。
赤鬼は「悩みがあるなら専門家に電話しな」とスマホを差し出し、同連合会の無料相談ダイヤルを3匹に紹介。後日談では、3匹から桃太郎に郵便はがき届き、「どうせ新天地でうまくいってないんだろう」と裏面をめくると、鬼ヶ島で幸せそうに働く3匹と赤鬼の姿が描かれている。それを目にした桃太郎は言葉を失っていた。
「働く人々を大切にする社会が実現できれば」
同サイトを公開している全国社会保険労務士連合会によると、元は大学の食堂で使われる配膳トレーに貼り付ける目的で作成した。社労士という職業の認知度を高めて、有資格者を増やす目的があったという。同連合会の広報担当者は
「桃太郎といういわば正義の味方をあえて悪役にすることでユーモアを交え、親しみを感じてもらえるように作成しました」
と設定の背景を語る。同サイト公開から半年で数万件にのぼるアクセスがあり、以降も毎年約2000件のペースで相談が寄せられているという。
広報担当者は「当初は学生アルバイトのトラブル解決が狙いでした」と前置きしながらも、
「現在は"パワハラ"という言葉を耳にする機会も増え、学生だけでなく一般の方にも当てはまると考えています。多くのみなさんのトラブル解決の一助となり、働く人々を大切にする社会が実現できればいいと思います」
とコメントしていた。