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「アルバイトにも賞与」最高裁で弁論へ、原告女性「支給日に非正規も笑える社会に」…大阪医科薬科大事件

2020年09月13日 09:51  弁護士ドットコム

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アルバイトにも賞与ーー。高裁で初めての判断が出た大阪医科大(現・学校法人大阪医科薬科大)事件の上告審で、9月15日に最高裁で弁論が開かれる。原告となった元アルバイト職員の女性も意見陳述に臨む。


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9月にはこの事件も含めて、正規雇用と非正規雇用との間に不合理な格差を設けることを禁じた「旧労働契約法20条」をめぐる五事件で最高裁の弁論がある。



女性側は、賞与こそが正規と非正規の大きな格差を生み出しているなどとして、同大でアルバイトに賞与が支給されないことを労契法20条違反とした高裁の判断を維持するよう求めている。



●賞与ゼロで大きな年収格差

女性は2013年1月に同大に秘書として採用された。正職員と同じフルタイムだが、時給制のアルバイトだった。



ただ、隣の研究室の正職員が教授ら6人を担当していたのに対し、女性の担当は15人からスタート。最後は30人になったという。



しかし、年収は正職員の秘書の3分の1ほど。事務系の新卒正職員と比べても、基本給は8割程度だったが、賞与がない分、年収では倍近くの差がついた。



女性は増員を要請したが、達成されることはなく、そのうちに適応障害で休職することに。しかし、ここでもアルバイトだったため、正職員らはもらえる病気欠勤にともなう賃金が支給されなかった。



納得できない女性は「嫌な思いをするだけ」と言う家族の反対もある中、裁判を起こした。しかし、一審は完全敗訴。「やっぱり裁判なんて大それたことをしなければよかった」と後悔したこともあったという。



しかし、高裁では、基本給についての格差は合法(のちに確定)とされたものの、賞与など一部で逆転の判断が出た。



●高裁では賞与の性質がポイントに

今回、最高裁で争われているのは、(1)賞与、(2)病気休職中の給与、の2点だ。



まず賞与について、同大では査定に関係なく、正職員に対しては年間約4.6カ月分、契約職員には正職員の支給率の80%を支給していた。



大学側は、正職員に賞与を出すことについて、業績貢献にともなう賃金の後払い的な性格があることや、長く働いてもらうためであるなどとする。



一方、高裁は、賞与が年齢や在職年数と連動していないことや、長期雇用を必ずしも前提とせず、業務内容にも制限がある契約職員にも80%が払われていることに着目した。



判決では、同大の賞与には、「在籍し、就労していたことそれ自体に対する対価」としての性質があるとして、アルバイトに賞与を出さないのは違法と判断。そのうえで、功労の度合いも加味し、アルバイトには、正職員の支給基準の60%は必要とした。



また、病気休職中の給与等についても、大学側が長く働いてもらうためなどと主張したのに対し、高裁はアルバイトでも契約更新の可能性はあるなどとして、一部ではあるが支給を認めた。



●「非正規労働者も賞与支給日に笑える社会に」

今回、この事件では特に賞与の点が注目されている。



「同一労働同一賃金」で同じく最高裁で争われている「日本郵便事件」や「メトロコマース事件」では、賞与の金額(正規雇用との格差)部分について上告が受理されず、格差を合法とした高裁判決が確定している。一方、今回は賞与ゼロというケースだ。



同種裁判の弁論が集まっていることから、事例判断にとどまらず、賞与について最高裁が何らかの基準を示す可能性が高いと考えられる。



女性は「賞与支給日に下を向いていた非正規労働者も一緒に笑いあえる社会であってほしい」としている。