子供の頃、ビデオ屋でガンダムシリーズのVHSをレンタルしてきてもらい、それを観るのが楽しかった。当然MSの活躍目当てである。まだ大人の人間関係なんか興味もなかった頃は、とにかくキャラクターの主張なんてのも添え物。全然興味がなかった。
ところが中学生ぐらいになってくると、だんだん主要人物の考え方を読み取ろうとするようになる。大体理解できるけど、それでもたまに「こいつの言ってることよく分からん」という感想にぶち当たることがあった。
このとき僕は「まだ未成年だから、大人の言うことなんて分からなくて当然だな」と納得していた。しかし、現在僕は36歳。この年齢になってみて改めて中学生の頃に理解できなかったキャラクターの心情をもう一度汲み取ろうとしても、やっぱり分からないことばかりだ。
ギレンがなぜキシリアが自分を撃たないと確信していたのかも、ジェリドがどうしてあんな短期間にライラに心を許したのかも、シロッコが何であんな変な髪型をしていたのかも。未だにこの年齢になっても分からないものは分からない。
分からないと言えば、ハマーン・カーンだ。『機動戦士Zガンダム』の中盤、第三勢力である旧ジオンの亡霊、アクシズを率いて地球圏に到来したハマーン。人気の高いキャラクターだけど、昔っから僕はハマーンに対しては「感受性の高い、目つきとファッションセンスの悪い女の子」以外の感想が持てない。彼女の気持ちが全然分からないままなのだ。(文:松本ミゾレ)
連邦議会のあるダカールを制圧、ジオンを名実ともに復活させる
先日、5ちゃんねるで「ハマーンは1st~CCAまでで1番の有能指揮官だよね」と題するスレッドを目にした。スレ主は本文において、妹に暗殺されるギレンも、わざわざコロニーレーザー内で芝居がかった主張をして、そのせいでレーザー発射の猶予をエウーゴにあたえたシロッコもみんな無能と言い切っている。
特にシャアについては、
「一端帰還したハマーンにわざわざボロボロの百式で挑んで負けるシャア
サイコフレームをアムロにわざわざ流して負けるシャア」
などと書き、やはり無能と断じている。
一方で評価しきりなのがハマーンだ。連邦議会のあるダカールを制圧して、サイド3の割譲を引き出し、ジオンを名実ともに復活させたのは彼女として、超有能指揮官と褒めちぎっている。
そのうえでスレ主は、そんなハマーンに唯一欠けていたものが「血統」と主張する。
「ジオンの王子だったシャア
ジオンの姫君だったプル、プルツーの様な血統はなかった
ハマーンがダイクン、ザビ家の血を引いてれば…」
しかし、スレッドを色々と見ていくと、意外と賛同の声は少ない。まあガンオタはAさんが何かを主張すると、BさんからZさんまでが反論するような習性を持っているんだけど。
「残った部下と組織を裏切って私闘に走った最低指揮官」
「ハマーン様はパイロットとしては優秀だが、ZZの初期はグリプス戦争で連邦ボロボロの漁夫の利を拾いすぎ。後半はグレミーにやられ過ぎて消耗……そして敗戦。指揮官として、為政者として、もっと言えば独裁者としてどこまで有能かは」
「シャアとジュドーに惹かれなければ、ハマーンはもっと有能になれた」
と、このような具合にハマーンに為政者としての資質はないのでは?とする声はいくつかある。
まあ、元々アクシズって帰還した時点でそこまで兵力に余裕はなかったはずだし、一年戦争を生き抜いた歴戦兵もグリプス戦役でかなり失われていたはず。
続く第一次ネオ・ジオン抗争ではよりによって内部分裂するっていう最悪の状況だった。この辺を見るとハマーンに欠けていたものは指導者としての資質ではなく、運の要素のほうが大きいように思える。
それに加えて、わざわざシャアやジュドーなど、敵方に回った男に執着しすぎてるってのも。まあこれはハマーンが若いし感受性が高いから仕方ないけど。でもそれに振り回される部下は辛いだろうなぁ。
ハマーンは年齢の割にものすごく頑張ってたのは事実
冒頭で書いたように、僕はいまだにハマーンの気持ちに一切共感できない。多分作劇的にはハマーンには共感しないほうが正解だと思うんだけども、意外と他のガンオタは「気持ち分かるわ~」みたいに言う人もいて、戸惑っている。共感の余地ないような気がするんだけどなぁ。
一番思うのは「もっと上に立つ存在がいなかったのかなぁ」ってことで。アクシズって人材面での枯渇が目に付くけど、指導者も不足している。ハマーンが地球圏に戻ってきた時点で若干二十歳。そんな若い娘が普通摂政として君臨するだろうか。
そこが、普通ではあり得ない状況が通っちゃうぐらい人材難ということなのだろう。そう思えば、僕もハマーンの境遇に理解はできないが同情はしてしまう。
周りにはあんまりイイ男はいないし、彼女のクソ短い人生の終盤では元々少なかった部下もみんな敵・味方に分かれてオカルト合戦を繰り広げるし。弱体化著した連邦やエウーゴを、それでもどうにもできなかった気持ち、まさに憤懣やるかたない思いだったことだろう。
普通あの年齢の女の子が摂政やってエースパイロットやって元カレと血みどろの戦いなんかしないもの。それを黙々とこなして、カミーユみたいにおかしくもならず、最終的にお気に入りの少年・ジュドーと一騎打ちの果てに退場したのは、これはすごいことなんだろうなぁ。
ただ、付き従った面々はどういう気持ちだったんだろう。指揮官が勝手にガンダムと戦って死んだという結論だけを聞き及んだ瞬間の、戦場の兵士たちの気持ちが知りたい。
あ~でもアレか。意外とすんなり納得したのかもなぁ。いくら有能でも、ハマーンを神輿にするには若すぎたってことで。