2020年09月12日 08:31 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの影響により家で過ごす時間が増え、若い女性からSOSが発されている。NPO法人「10代・20代の妊娠SOS新宿―キッズ&ファミリー」には、家庭内の性虐待・性暴力に関する相談が年間2~3件ほど寄せられるが、今年は4~6月だけで5件と相次いでいる。
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他にも、コロナ自粛中に家出した20代の女性が、ネットカフェも閉鎖したことで住まいがなくなり、ネットで知り合った人に付いていき地方で売春を強要され妊娠したという相談もあった。
佐藤初美代表理事は「女の子たちはすぐに相談できず、悩んで悩んで悩み抜いて、その間に妊娠週数が進んでしまう。ひとりで抱え込まないで、まずは相談してほしい」と話す。
新型コロナウイルスの影響で学校も休校となり、家庭内で高校生の兄や義父から被害にあったという相談が続いた。佐藤さんは「全体の相談件数は例年と変わりませんが、家庭内性暴力の被害相談が増えました」と話す。
「家族が壊れたらどうしようと怖くなり、誰にも知られたくないから相談できない」と佐藤さん。一番支えになるはずの親に被害を打ち明けたものの、親が戸惑ってしまい、加害者である交際相手や再婚相手の方を擁護するケースもあるという。
そうした場合は、自分の身の回りで「この人なら話せそう」という大人を考えてもらい、連絡を取り一時的に避難してもらう。遠い親戚や友人の母など、日頃から家庭環境を知っていて気にかけていてくれた人が受け入れ先になることが多い。
「本来ならば安心安全にいられるはずの家庭が、恐怖の場になってしまっている。妊娠SOS新宿に連絡をくれた子には、本当によく勇気を出して連絡をしてきたね、頑張ったねと伝えます。同じような立場にある子には、ネット上でアクセスしてくる専門家ではない人ではなく、信頼できる機関や周りの人に助けてと言って欲しいです」
妊娠SOS新宿は2016年12月から電話とメールでの相談受付を始め、2020年7月末までの相談者は842人にのぼる。相談対応は一人あたり平均25回と他の支援団体の数倍で、寄り添いながらそれぞれの選択を後押しする。
寄せられる相談のうち、年間の中絶件数は10件未満で、出産は20~30件ほど。相談の6~7割は、実際には妊娠をしていないケースだという。
「互いの性器を触るといった大人から見ればどう考えても妊娠しない行為であっても、不安になって連絡してくる。その時感じた恐怖感を一緒に振り返りながら、二度とそういった思いをしないように、どうしたら妊娠するのか、避妊とは何かを伝えます」
日本の性教育は、月経や精通、性感染症については教えているが、小学校の理科の学習指導要領では「胎児の成長の様子は学ぶが、人の卵と精子が受精に至る過程については取り扱わない」としている。
中学校の保健体育の学習指導要領も「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」としており、指導にあたっては「保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切」と縛りがかかっている。
佐藤さんは「性教育で性交をきちんと教えないことが一番の課題。胎児はポンとできるわけではない」と幼児期から義務教育終了までの性教育の不十分さを問題視する。
若い世代を悩ませているのが、出産にかかるお金の問題だ。妊娠SOS新宿に寄せられる相談のうち、妊娠初期のものは少なく、妊娠12週を超えていることがほとんどだ。お金のことが不安で、「妊娠しているかも」と思っても産婦人科に行けない子が多くいる。
出産費用に悩む女性を狙った事件も起きている。妊娠中の女性がSNSで「出産費用がないからどうしよう」とつぶやいたところ、「撮影に応じたら、費用を出してあげるよ」と返信があった。待ち合わせ場所に行くと4~5人の男性が待っていて、ワンボックスカーに乗せられ、ラブホテルで撮影されたり乱暴されたりした。
妊娠SOS新宿には、同じような手口の相談が未遂も含めて3年半で7件ほどあった。佐藤さんは「妊婦健診と出産費用は、所得制限をかけてでも無料にするべき」と訴える。出産育児一時金として約40万円が支払われるが、都内では出産費用は50万円以上かかることも多い。
「親に出産費用の負担をかけるのが申し訳なくて、自分でなんとかしようと真剣に悩んでつぶやいた。そこに相手はつけこんで来ますが、女の子はその誘いの意味がわからないんです。母子手帳を交付する窓口の保健師には、出産費用がなくても制度があるから相談してほしいと強調してほしいです」