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宇垣美里もハマる! 女子校の男性教師の日常を描くコメディ漫画『女の園の星』の魅力

2020年09月12日 08:20  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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女子校の国語教師・星先生の日常が描かれるコメディ漫画『女の園の星』(祥伝社)。手塚治虫文化賞短編賞などを受賞し話題となったデビュー作『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA)の作者、和山やま待望の新作だ。7月の発売直後から売り切れが続出、およそ2か月で10万部を超え、アマゾンレビュー(9月4日現在)470件中92%が星5つという大人気ぶりだ。

冒頭では「女の園の くだらないお話」とあるように、高校2年生の担任である星三津彦が、学級日誌で始まった絵しりとりに翻弄され、教室で犬を飼うはめになるなど、端正な絵柄とは真逆のゆるいエピソードが展開される。ありそうでなさそうという話の連続だが、なんだか妙に笑えてしまう不思議な魅力に満ちた作品だ。(文:篠原みつき)

媚びない素のままの女子高生が心地いい

本作の魅力は色々あるが、とりわけ楽しいポイントは、登場人物たちの会話にあると思う。星先生は、誰にでも丁寧な言葉づかいをする真面目な雰囲気の先生で、放課後に帰宅する生徒たちに『気をつけてお帰りくださいませ』と声をかける。すると、生徒は『お帰りくださいませってウケんだけど』『敬いすぎ』などと雑談のテンションで帰っていく。先生に聞こえても構わない音量で。

同僚の小林先生が自分のあだ名を知ってしまう場面では、女子たちのこんな会話が教室から廊下に漏れ聞こえてくる。

『ね~次の授業誰だっけ?』『えーっと…ポロシャツアンバサダー』『ああ大使か』『ダル』

”ポロシャツアンバサダー”は、小林先生がいつもポロシャツを着ているためついたあだ名だ。教師を陰で無慈悲なあだ名で呼んだ覚えは誰にでもあるだろうし、異性を気にしない雑な言葉づかいはまさに女子校の日常だ。筆者も女子校出身のため、こうした描写の積み重ねが楽しくて仕方がなかった。媚びない素のままの女子高生の描き方が実に心地いい。

恋愛要素が一切ないところもいい。生徒が先生に恋をすることもないし、女子が描かれるときにありがちな嫉妬やマウントの取り合いもない。女子の集団だからといってさほどギスギスしたことはなく、“女子高生なんてこんなもんだ”というニュートラルで平和な日常が描かれている。こうした描かれ方に安心感を覚えるのは「女子高生」という言葉が、時に“若くて可愛い女性”の同義語であり、性的なイメージで語られることが多いからではないか……とは考えすぎだろうか。

「こういう先生がいたらよかったなという思いも込めて描いてます」

加えて本作は、熱血指導の先生が一人も出てこない。星先生は熱血どころか、テスト中に生徒が漫画を描いていても大して叱らない。一応注意はするものの、ちょっともの足りないくらいの距離を保って生徒と接している。それが逆に、過剰に生徒を矯正しようとする大人よりも安心感があり、愛着が湧いてくる。

ちなみに作者ご本人は女子校出身ではないが、担当編集者が女子校出身で、いろいろと参考にしたそうだ。和山さんは9月2日放送のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」に電話出演し、

「女子校を舞台にしようと決まったとき、女子校出身の担当さんとどういう男性教師がいたら好きになるかと話して決まったのが星先生。自分の(高校)当時も思い出して、こういう先生がいたらよかったなという思いも込めて描いてます」

と語っていた。「干渉しないというか、ただ遠くから見つめている、あまりうるさく言ってこない感じ」とのこと。実際にいるかどうかは別として、いたらいいなという教師像だ。

人間関係に疲弊している人に

とはいえ、現実はスクールカーストやパワハラ教師に疲弊している人、友人とSNSでつながりすぎてしんどくなっている若者も多いだろう。あるいは実際に巻き込まれていなくても、そうした困難を頻繁に耳にする世の中だ。だからこそ、星先生を中心とした “つらい人間関係や激しい展開のない日常”が、不思議なギャグとともに癒しとして支持されているのではないだろうか。

ラジオでは宇多丸さんも「近年で一番笑いました」と大絶賛、火曜パートナーでアナウンサーの宇垣美里さんも「大好きですね!何回読み返しても同じところで笑って」とファンであることを公言していた。ぜひ、人間関係に疲弊している人に、読んで笑って頂きたい一冊だ。次回作は12日に、ヤクザと男子中校生の物語『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)が発売予定。こちらも予約発売の時点で重版がかかっている。今後もますます和山ワールドから目が離せない。