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F1 Topic:ライバルが称賛した最高のディフェンス。なぜガスリーはサインツの猛追を凌げたのか【F1第8戦】

2020年09月10日 18:31  AUTOSPORT web

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2020年F1第8戦イタリアGP 優勝したピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)と2位カルロス・サインツJr.(マクラーレン)
F1第8戦イタリアGPでのピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)の奇跡とも思える初優勝には、アルファタウリの絶妙な戦略と、それを実行したガスリーの高度なテクニックがあったことも忘れてはならない。

 特に印象的だったのが、レース終盤にカルロス・サインツJr.(マクラーレン)の猛攻を、ガスリーは凌ぎきったことだ。なぜ、ガスリーは防御できたのか。

 その最初の鍵となるのが、赤旗によるタイヤ戦略の変更だ。赤旗となる前に2人はともにタイヤ交換を済ませており、そのとき選択したタイヤはガスリーがハードでサインツがミディアムだった。

 しかし、赤旗が出てタイヤ交換が可能になったため、ガスリーは残っていた新品のミディアムに交換したのに対して、サインツには新品のミディアムは残っておらず、22周目にタイヤ交換したミディアムをそのまま使用することにした。残り27周ならハードは硬すぎ、ソフトは軟らかすぎたからだ(赤旗後4番手と5番手からスタートしたアルファロメオの2台がポイント圏外に終わり、エステバン・オコンがレース後、無線でエンジニアと口論していたことでもわかる)。

 この4周分のマージンが、ガスリーにとって、レース終盤大きな力になる。それはガスリーのほうがダウンフォースをつけ気味にしたセッティングにしていたからだ。モンツァはセクター1がシケインひとつと全開で走る高速コーナーひとつだけの高速区間だが、セクター2にはレズモがあり、セクター3にはアスカリとパラボリカの中高速コーナーがあるため、ダウンフォースもそれなりに必要となる。

 つまり、抜きどころとなる1コーナーまでのストレートでは最高速で時速7kmほどサインツのほうが上回っていたが、セクター2と3はガスリーのほうが速かった。特にガスリーが速かったのがセクター2で、ここではハミルトンに次ぐ2番手の速さがあり、7コーナー(レズモの出口)のコーナーリングスピードは、5番手サインツの時速166.3kmに対して、ガスリーは時速179.6kmと時速13kmも速かった。

 そのことはレース後の会見でガスリーもコメントしていた。

「カルロスがスリップストリームを利用してくることはわかっていた。だから、僕はコーナーでできるだけタイムを稼いで、近づかせないようにした。でも、そうすればタイヤが傷む。でも、僕たちが勝つにはそれしかなかった」

 案の定、ガスリーのタイヤは自分たちが想像していたよりも早く終わり、「最後の数周は滑りまくっていた」と言う。しかし、それでもサインツがなかなかガスリーのDRS圏内に入ることができなかったのは、4周分のタイヤの寿命にあった。

■サインツにオーバーテイクさせないためのガスリーの戦略

 それでも、自力に勝るサインツはファイナルラップのホームストレートでようやくガスリーのDRS圏内に入るが、オーバーテイクには至らなかった。そこには、ガスリーの冷静な対応があった。

「回生エネルギーを温存していたんだ。オーバーテイクボタン用に使うためにね」(ガスリー)

 このイタリアGPからパワーユニットは予選専用のICE(内燃機関エンジン)モードが禁止され、ICEモードは予選とレースで同一でなければならなくなった。そのため、昨年のオーストリアGPでマックス・フェルスタッペンが逆転優勝した時に使用したような「エンジン11、ポジション5」という設定変更はできなくなっていた。

 ただし、それはICEモードであって、回生エネルギーの設定は規制の対象となっていない。

 ファイナルラップでようやくDRSを使用して、ガスリーのスリップストリームに入ったサインツも、ガスリーがオーバーテイクボタンで防御したことを認めている。

「やっとピエールのスリップストリームに入ったと思ったら、彼がバッテリーを使って逃げていくのがわかった」

 つまり、ガスリーはサインツがDRS圏内に入ってくるまではバッテリーを温存して、タイヤのグリップ力を使ってコーナーで逃げていた。そして、サインツがDRS圏内に入ろうとしてきたファイナルラップへ入る最終コーナーの立ち上がりで、サインツに詰められないよう、オーバーテイクボタンを押して逃げた。

 そのことはファイナルラップに入るときのコントロールラインの速度が物語っている。

ガスリー
52周目:時速303.5km→53周目:時速313.9km

サインツ
52周目:時速316.0km→53周目:時速332.9km

 53周目のコントロールライン上のスピードは、ストレート区間が速いサインツがスリップストリームを生かして前の周よりも時速約17km速いが、ガスリーもオーバーテイクボタンを押して加速。前の周より時速約10kmスピードアップしていた。

 コントロールラインの115m先で、いよいよサインツがDRSのボタンを押してリヤウイングを開放するが、サインツは1コーナーまでにガスリーをとらえることはできなかったことを考えると、サインツのバッテリーがストレート上で切れていた可能性が考えられる。

 最大のピンチを凌ぎ切ったガスリーはファイナルラップもミスなくすべてのコーナーを走り切り、トップでチェッカーフラッグを受けた。

 敗れたサインツは言った。

「あと1周あれば、優勝できていたかもしれない。でも、今日のピエールの走りは見事だった。あれは最高のディフェンスだったよ」