トップチームやトップドライバーたちが次々と脱落していくなか、今年のF1第8戦イタリアGPの主役となってレース終盤を盛り上げたのが、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)とカルロス・サインツJr.(マクラーレン)だった。
レース再開後の34周目のホームストレートで、トップに立ったガスリーの後方で2番手のキミ・ライコネン(アルファロメオ)にサインツJr.が迫る。
マクラーレン:あまり焦るな
サインツJr.:僕はガスリーと勝負したいんだ
マクラーレン:ひとつずつだ
直後の1コーナーでライコネンをオーバーテイクしたサインツJr.は2番手に浮上。トップを走るガスリーとの差は約4秒だ。11周後の45周目にはその差は1秒台となり、いよいよレースは残り3周へ。
サインツJr.:近づくと前車の乱気流がひどい。******
マクラーレン:残り3周だ、カルロス。集中して全力で戦え。絶対にミスをするな
そして、52周目に2人の差は1秒を切る。
マクラーレン:カルロス、いま君は2番手だ。慎重に行こう。絶対にミスをするな
サインツJr.:僕は勝ちたいんだよ、トム(・スタラード/担当レースエンジニア)
しかし、ガスリーもサインツJr.を上回る集中力で必死に防戦。そして、53周で行われた今年のイタリアGPのチェッカーフラッグを最初に受けたのは、ガスリーだった。わずか0.415秒抑えてサインツJr.に競り勝って、F1初優勝を達成したガスリーが最初に発した言葉は「オー・マイ・ゴッド」だった。さらにガスリーは叫びまくった。
ガスリー:ついに僕たちはやったぞ
アルファタウリ:やったぞ!!
ガスリー:レースに勝ったんだ。イェーイ。オー・マイ・ゴッド! 俺たちまたやったよ! オー・マイ・ゴッド、イエス! ウァァァァァ
アルファタウリ:P1だ。ピエール! P1だ
ガスリー:ついにレースに勝ったんだ……!
その後、ウイニングランに入ったガスリーに、レース後に行わなければならないパワーユニットの技術的手順を伝えるが、ガスリーの興奮は収まらない。
アルファタウリ:フェイル84だ。フェイル84
ガスリー:オー・マイ……
アルファタウリ:フェイル82だ。いますぐフェイル82だ。お願いだから、すぐにやってくれ
ガスリー:オー・マイ・ゴッド。みんなにおめでとうと言いたい。チームのすべての人たちにだ。みんな最高の仕事をしてくれた。アルファタウリ、ホンダ、すべてのエンジニアとメカニックたち、そして(アルファタウリのファクトリーがある)ファエンツァの全員にありがとうと言いたい。僕たちはやったんだ。イェーイ
アルファタウリ:ありがとう、ピエール。素晴らしいレースだった
ガスリー:もっと早くミラノに引越しすべきだった
アルファタウリ:OK、もうすぐピットエントリーだ。ピットレーンに入ったら、パルクフェルメで"ナンバー1"のボードにマシンを停車するのを忘れるなよ。そして、停車したら、スイッチをP1にして待っててくれ。その後、こちらから合図したらP0に。そうしたら、表彰台へ行っていいぞ
一方、0.415秒差で初優勝を逃したサインツJr.は、自己最高の2位にも胸中は複雑だった。
マクラーレン:すごいレースだった、カルロス。P2だ! 君は勝ちたかったと思うけど、2位だぞ。素晴らしいリザルトだ。君は週末を通して素晴らしかった。赤旗(で順位を落とした分)をよく挽回した。最高の仕事だった
サインツJr.:ああ。でも、笑っていいのか泣いていいのかわからないよ。あああ……いままでで最も(優勝に)近かったのに……あと1周あれば……
8位でフィニッシュしたエステバン・オコン(ルノー)にとっても悔しいレースだった。レース序盤に自分の後ろを走っていたガスリーが優勝したことで、その不満は爆発。レース後、オコンも悔しい思いをぶちまけた。
ルノー:OK、エステバン。素晴らしい仕事ぶりだった。12番手スタートから8位だから、悪くない結果だ。ダニエルは6位だったから、チームにとっては大量ポイントを獲得できてよかった。よくやった
オコン:了解……いや、やっぱり、違う。僕はそう思わない。今回、僕たちは完全にチャンスを逃した。本当に大きなチャンスだったのに……
ルノー:OK、それでやめておけ。その件についてはミーティングで話そう。もうやめるんだ
オコン:違うよ。僕たちは現実と向き合うべきだっていうことを言いたいんだ
ルノー:お願いだから、無線ではこれ以上話さないでくれ
オコン:何が現実かって。この順位は僕たちがいるべきポジションじゃない
一方、ポイント圏外の12位に終わったロマン・グロージャン(ハース)は、優勝したのが同じフランス人のガスリーということもあって、無線で後輩の勝利を祝福していた。
グロージャン:レースはどうなった?
ハース:ガスリーが優勝。2位がサインツで、3位(ランス)ストロール、4位(ランド)ノリス……
グロージャン:ついにやったな! 素晴らしいよピエール! 1996年以来のフランス人ドライバーの優勝だ!
そしてこのレース限りでF1から退くこととなったウイリアムズ家へ、ふたりのドライバーが感謝を述べた。
ジョージ・ラッセル:この機会を借りて、クレアとフランクに伝えたいことがある。これまであなたたちがやってきたことすべてに感謝している。あなたたちがF1を去ることはすごく寂しいけれど、心の底から感謝している
ニコラス・ラティフィ:クレア、最後のレースを終えて、いまあなたはいろんな感情が駆け巡っていると思うけど、僕はあなたに感謝しかない。僕だけでなく、F1もあなたたちがいなくなることを寂しがっていると思う。でも、僕たちはこれからもウイリアムズの名前を背負って、100%全力で戦っていくからね
レース後、クレアはこう語って、サーキットを後にした。
「この素晴らしいチームでみんなと仕事ができたことは私の最大の名誉であり、とても光栄でした。良い時も悪い時も、本当に長い間私たちをサポートしてくれた世界中のファンにお礼を申し上げます。私は今日、たくさんの思い出を胸にしまってここを去ります。でも、私たちは永遠にF1を愛し続けます」