2020年09月09日 10:02 弁護士ドットコム
検索サイト大手「Google」(グーグル)の検索結果に逮捕歴が表示されつづけるのは、プライバシーの侵害だとして、男性が米グーグル社に削除をもとめた訴訟の控訴審(札幌高裁)で、男性は9月上旬、控訴を取り下げた。
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報道によると、グーグル側が検索結果を削除したためだという。昨年12月の1審・札幌地裁は、検索結果の一部削除を命じていたが、原告の男性が不服として控訴していた。
最高裁は2017年、「プライバシーの保護が情報を公表する価値より明らかに優越する場合に限る」という判断基準を示している。
今回の控訴取り下げについて、どんな背景があると考えられるのか。インターネットの権利侵害問題に取り組む神田知宏弁護士に聞いた。
――グーグルなど、検索サイト側が削除に応じることはよくあるのでしょうか?
グーグルに削除の仮処分(裁判の一種)を申し立てると、決まって『ウェブフォームからも削除申請してもらいたい』と言われます。これにしたがって削除申請すると、グーグルが通常のフローにのせて社内で判断して、いくつか削除されます。検索結果全体ではなく、検索で表示されるスニペット(ウェブページの要約文)だけ削除される例もあります。
――男性は以前、女性に性的な暴行を加えた疑いで逮捕され、その後、嫌疑不十分(嫌疑を立証する証拠が不十分)で不起訴になっていました。最高裁の基準などから、今回のケースはどう評価されますか?
最高裁の基準は、諸事情を検討のうえ、プライバシーを公表する法的利益より、公表されない法的利益の優越が明らかな場合に検索結果を削除するというものです。最高裁の決定後、逮捕報道の検索結果は基本的に削除しにくくなりました。
同じ不起訴でも、起訴猶予(嫌疑を立証できるが、諸事情で起訴しない)だと、報道から15年経過していても削除決定が出ていません。これに対して、嫌疑不十分の不起訴は、私が知る限りでは、例外なく削除決定が出ています。今回のケースもその1つです。
――なぜ控訴を取り下げるのか?
問題の検索結果が実際に表示されていないと、削除決定・削除判決は出ませんので、グーグルが任意に検索結果を削除すると、削除請求は取り下げざるを得ません。
将来の差し止め請求(妨害予防請求)は、検索結果が将来表示される蓋然性を立証する必要があるため、妨害排除請求よりもいっそうハードルが高くなります。
また、損害賠償請求は「公表されない法的利益が優越することが明らか」だと、グーグルが知りつつ削除しなかった状況が必要となるため、なかなか難しいのでしょう。
【取材協力弁護士】
神田 知宏(かんだ・ともひろ)弁護士
発信者情報開示請求や削除請求などインターネット上で発生する権利侵害への対処を多く取り扱う。最高裁平成29年1月31日決定(グーグルに対する検索結果削除請求事件)の抗告人代理人をつとめる。2019年に『ネット検索が怖い ネット被害に遭わないために(ポプラ選書 未来へのトビラ)』を出版。
弁護士神田知宏ネット問題サイトURL:https://kandato.jp
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/