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『思い、思われ、ふり、ふられ』正反対な2人のヒロインは恋とどう向き合う?

2020年09月09日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2020年8月には実写映画化され、9月にはアニメ映画が公開となる『思い、思われ、ふり、ふられ』。作者は『アオハライド』や『ストロボエッジ』など高校生のもどかしい恋愛を描く咲坂伊緒だ。


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 人見知りが激しく、恋に夢みがちな市原由奈、誰とでも気軽にコミュニケーションを取ることができ、現実的な恋愛観を持つ山本朱里。そして由奈の幼なじみ・乾和臣、朱里の義理の弟・山本理央の4人の恋の物語。


 正反対の性格とも言える由奈と朱里。制服の着方ひとつとっても2人の違いは見て取れる。けれど2人はやがてかけがえのない親友になり、よき理解者となっていく。そんな2人のヒロインの魅力に迫る。


■初恋は絵本の中の王子様ーー恋に恋していた由奈


 男の子とうまく話せず、常に下を向いてしまいがちな由奈。初恋の「絵本の中の王子様」と似ている理央と出会い、気になって仕方がないが、それを恋とは認めない。


 「こんな私のことを見つけてくれて好きになってくれる運命の人がいつかきっと――」と夢みる由奈に対して、朱里は「恋って気がついたら落ちてるものじゃないの!?」とフットワークが軽い。


 由奈は、自信のなさも手伝い、朱里の恋愛の仕方を「軽薄」で「そういうのってなんかよくない気がする」と心の中で責めてしまう。由奈が知っている恋は物語の中のことだけで現実を知らない。


 周りの人たちとの関わりで由奈の考え方も変わっていくが、大切な根っこの部分が変わってしまうわけではない。由奈自身も、本来の自分を知らなかったのではないだろうか。


 自信がなく、下を向いてばかりいた由奈は前を向き、「王子様」の理央に告白をする。理央が朱里を好きで、叶わない恋をしていると知っていながら。


「好きです。だからふって」


 由奈が告白を決意したのは、自分の想いを成就させたいからではない。朱里への気持ちを抱え苦しむ理央を支えたいと思ったからだ。変わらずそばにいたい、という気持ちもあっただろうが、この告白は想像しているよりも辛いだろう。実際、由奈は理央の顔をまともに見られなくなる時期もあった。それでも理央の力になろうとし、時には叱る。なぜ理央の想いに気が付かないフリをしているのか、そんな朱里の気持ちも考えてほしい、と本心から諭す。


 そんな朱里の姿は、理央だけではなく、朱里や和臣の気持ちも動かしていくことになる。


■恋は落ちに行くもの――現実的なイマドキのヒロイン朱里の変化


 サバサバしていて来るもの拒まず、去る者追わず。立ち止まっていても仕方がないから、と前を向く。恋愛に対してもドライでサバサバ。人に執着しないのは、母親がバツ2で転校を繰り返していたからだった。


 現実はこんなものなのだと、自分の本当の気持ちにはフタをして、物分りのいいオトナのフリをする。


 理央が自分のことを好きなのだということを知っていても、知らないフリをした。朱里としては、再婚する母親に幸せになってほしかったこと、自分の言動ひとつで家族の生活を変えてしまうと分かっていたからだ。言いたいこともたくさんあるし、怒っていることもたくさんある。それに全部フタをして過ごしてきた。


 そんな風に自分を守るように縮こまっていた朱里の心をあっさりと解き放ったのが和臣だった。


 飾らず、思ったことを口にする和臣は朱里の図星を突き、本来の自分の気持ちを自覚させていく。何より、恋愛の駆け引きが当然だった朱里にとって、女子がドキッとするような言葉を天然で言ってしまう和臣は異質な存在でしかなかった。


 由奈の存在も大きい。理央を好きになったことで、変わっていく由奈を近くで見ながら「恋ってだいたいこんなもの」という意識が崩れていった。その結果、「恋愛ってどうやってするものだったっけ」と由奈と同じラインに立ち、初めての“どうにもできない”恋を体験していくことになる。


■タイプの違うヒロインたちの科学反応


 全ての行動には原因があるけれど、恋において行動を起こすにはまず心が動かなくては何もできない。恋心が動く瞬間は説明しがたく、錯覚か、本能か。


 朱里は「恋は落ちにいくもの」と言ったけれど、説明できない感情に突き動かされて恋に落ちた。


 由奈は「いつか王子様が来てくれる」と言ったけれど、抑えきれない「好き」に突き動かされて恋に落ちに行った。


 恋の全てはひとりでは成し得るものではない。恋の相手だけではなく、自分とは全く違うタイプの人がいることで、新たな行動の選択肢があることを知り、心を動かすきっかけも増える。


 由奈や朱里の心が動くたびに、読んでいる側の気持ちも揺り動かされる。自分が恋をしているわけではないのだけれど、懐かしかったり、新鮮だったり。恋まではいかなくても、誰かに焦がれてみたい。そんなときはぜひ彼女たちの恋に触れてみてはどうだろうか。


(文=ふくだりょうこ)