2020年09月07日 17:31 弁護士ドットコム
タレントの河相我聞さんがブログ「かあいがもん『お父さんの日記』」に9月2日に掲載した記事、「賃貸マンションで本当にあった少し怖い騒音問題の話」( https://www.otousan-diary.com/entry/20200902/1599051185 )が「下手な怪談よりこわい」と話題となっています。
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ブログ記事によると、数年前に河相我聞さんが仕事部屋として借りたマンションのワンルームで事件は起きました。
借りて数カ月たった頃、ドアのポストに管理会社から「騒音軽減へのご協力について」という手紙が投函されていたそうです。名義はマンションの管理会社からで、「マンションの入居者から騒音に関して苦情が出ている」ので「騒音や振動にご注意ください」などと書かれていました。
一旦は捨てたこの手紙ですが、その後何度も投函されることになり、事件は思わぬ方向へと展開。河相我聞さんの軽妙な文体とは裏腹に、厳しい残暑にふさわしく、ちょっと背筋が凍るラストを迎えます。
この手紙の顛末は、ぜひ河相我聞さんのブログで読んでいただくとして、以下はネタバレを含んだものになりますので、お読みになる際はご注意ください。
河合我聞さんの借りていたマンションは、もともと隣室のカップルがテレビを見たり、会話したりする音も聞こえるような壁の薄いマンションだったそうです。
入居して数カ月後、河相我聞さんの部屋に、マンションの管理会社を名乗る手紙が投函されました。そこには、「洗濯機、テレビや音楽などの音はある程度は騒音になりません」としつつ、「掃除機、ローラー音などの振動音は隣戸に伝わりやすい構造になっております。昼間でもお休みの方もいらっしゃるので」とあり、騒音に気をつけるよう書かれていました。
河相我聞さんは仕事部屋として使っていたため、パソコンで作業する程度でしたが、昼間に掃除機をかけたり、カーペットにコロコロをかけていました。そこで、河相我聞さんは掃除機をやめてモップにしたり、静かにコロコロをかけるなどの努力をしたといいます。
ところが、また手紙は投函されていました。そこでこの手紙について、管理会社に確認したところ、実は騒音の苦情は一件もきたことがなく、手紙も管理会社が作成したものではないことが判明します…。その手紙を出していたのは誰だったのでしょうか。河合我聞さんは下の階の住人の可能性が高いのではないかと考えたそうです。結局、河合我聞さんは怖くなって引っ越しをしました。
実は河相我聞さんが巻き込まれた近隣騒音トラブルは、珍しいものではありません。実際、「騒音」として認定されるのはどのような生活音なのでしょうか。マンション管理士の資格も有する本間久雄弁護士に聞きました。
マンションで「騒音」と認定されるのはどのような場合でしょうか?
「マンションの騒音トラブルについて、損害賠償請求が認められるかどうかについて、判例は、受忍限度論(騒音の程度や態様、配慮の程度、騒音の回避可能性などの諸要素を考慮して社会生活上やむを得ない騒音の程度を越えているかどうかを判断する)という法理を用いています。
騒音が受忍限度を超えているかどうかのメルクマールにおいて、騒音レベルの数値であるdB(デシベル)が重視されています。過去にマンションの騒音が受忍限度を超えたとされた裁判例において、50~60dB(東京地裁平成19年10月3日判決)が認定されています。これは、階上の部屋で子どもが走ったり、跳んだりした際に起きた騒音でした。
また、40~53dB(東京地裁平成24年3月15日判決)などの騒音レベルが認定されています。これも同じように、階上の部屋で子どもが深夜まで走り回ったり、跳んだりした騒音でした。
なお、東京地裁平成26年3月25日判決は、東京都の『都民の健康と安全を確保する環境に関する条例』が定める規制基準は、受忍限度を判断する上で、一つの参考数値として考慮するのが相当であると判示していることが注目されます」
生活上の騒音について、ホームページで具体的な事例を紹介している自治体もあるので、気になる方は一度、確認してみると良いかもしれないですね。東京都の事例はこちら( https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/noise/noise_vibration/daily_life_noises.html )
仮に「騒音」とされるケースの場合、問題の住人に対してどのような対応をとることができるのでしょうか。
「直接言うと角が立つことから、まずは管理組合や管理会社に相談をして善後策を相談した方がいいと思います。その上で、管理組合や管理会社を通じて間接的に注意してもらうことになると思います。
それでも騒音がやまないようであれば、騒音発生者に対して直接アクションを起こすことになります。
前述のように、騒音が受忍限度を超えているかどうかを判断する上で、騒音レベルの数値がいくらかであるかが重要となってくるため、騒音発生者に対するアクションを起こす前に騒音レベルの数値を継続的に測っておくといいでしょう。地方自治体によっては、騒音測定器を貸し出してくれるところもあるみたいです。
その上で、まず交渉をし、交渉が決裂したときは、裁判手続(調停・訴訟)で損害賠償請求と騒音の差止を求めることになります。裁判所を通じての話し合いである調停という手段を選択するか、それとも訴訟を提起するかについては、それまでの相手の態度を見て決めることになるでしょう。
前述の東京地裁平成24年3月15日判決は、階上の部屋の子どもによる飛び跳ね、走り回りなどの騒音について、差止と損害賠償の双方を認容しています」
実は河相我聞さんが受け取っていた管理会社からの手紙は、第三者が捏造したものだったことがわかりましたが、こうした手紙を捏造することに法的な問題はありますか?
「管理会社ではないのに管理会社であるかのように偽って文書を作成することは、無印私文書偽造罪(刑法159条3項)が成立する可能性があります。無印私文書偽造罪は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金と法定刑は有印私文書偽造罪(刑法159条1項、3月以上5年以下の懲役)よりも軽いですが、れっきとした犯罪なのでこのような行為は絶対にやめましょう」
今回、河相我聞さんはこのことがきっかけとなり引っ越しをしています。もし相手の行為が不法行為にあたるとなれば、相手に引っ越し費用を請求できるのでしょうか。
「文書の内容は、あくまで騒音をやめるように注意する内容であり、一般的に言って、この文書を受け取って引っ越しをしようということにはならないと思います(脅迫的な文言や名誉感情を著しく害する文言など畏怖・困惑させる文言が記載されていたら話は別だと思いますが、本件の場合ではそのような事情はありません)。
したがって、文書の投函と引っ越しという行為の間に相当因果関係を認めることはできず、引っ越し費用を請求することは困難だと思います。
ただ、相手方が文書を執拗に投函してきたり、文書を各所に貼り付けるなどと言った行為に及んだときは、生活の平穏を害されたとして慰謝料請求が認められる場合はあるものと考えます」
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/