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早産の赤ちゃんを救う「母乳バンク」がオープン - 東京・東日本橋「ピジョン」本社内に

2020年09月07日 13:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日本母乳バンク協会は9月1日、寄付された母乳を処理し、低体重で生まれた赤ちゃんに提供する「日本橋 母乳バンク」をピジョン本社1階に開設した(東京都中央区日本橋久松町4-4)。国内の母乳バンクとしては2拠点目、民間企業が全面的に開設をサポートした初の施設となる。

○母乳バンクとは?

母乳バンクは、出生体重が1,500グラム未満の赤ちゃんに、寄付された母乳を処理した「ドナーミルク」を提供するための施設。

母乳の検査、低温殺菌処理の実施、保管を行う施設で、医療機関の要請に基づいて、赤ちゃんの元にドナーミルクを届ける役割を担っている。世界では50カ国以上、600カ所を超える施設があるそうだ。

一方で、日本では2014年に開設された昭和大学江東豊洲病院内にある1施設のみ。年間約100人の赤ちゃんの元にドナーミルクを届けているが、提供対象となる1,500グラム未満の赤ちゃんは年間約7,000人いると言われており、施設を増やすことが急務となっていた。

今回オープンした「日本橋 母乳バンク」では、年間2,000リットルの母乳を処理・保管することが可能。1カ所目の母乳バンクが提供していた量の6倍にあたる、年間約600人の赤ちゃんにドナーミルクを届けられる見込みとなっている。

母乳バンクの開設を支援したピジョンの北澤憲政 代表取締役社長は、支援理由について「2018年にブラジルで母乳バンクを見学したのが全ての始まり。日本ではまだまだ普及していない現状を知り、小さな救える命を守りたいと母乳バンクの支援を決めた」と語っている。

○ドナーミルクで感染症や病気にかかるリスクを低減

そもそもなぜ、低体重で生まれた赤ちゃんに、人工乳ではなく、ドナーミルクを与える必要があるのか。

それは、必要な栄養素がバランスよく消化しやすい形で含まれている母乳には、さまざまな感染症や病気にかかるリスクを低減する働きがあると考えられているからだ。

日本母乳バンク協会代表理事の水野克巳さんはその効果について、一例として「腸の一部が壊死してしまう壊死性腸炎にかかるリスクは、母乳を与えることで、人工乳の約3分の1に低下させることができたという報告もある」と解説した。

壊死性腸炎は赤ちゃんの命にかかわる病気だが、母乳に含まれる腸管を早く成熟させる物質が、感染リスクの低減に大きな役割を果たしていると考えられているそうだ。

しかし、赤ちゃんを早く産んだお母さんは体の準備がまだできておらず、すぐには母乳が出ないことも多い。妊娠中にお母さんがガンの治療のために早めに出産したり、産後亡くなってしまったりして、母乳をもらえないケースもあるという。

それらの課題を解決してくれるのが、ドナーミルク。「小さな赤ちゃんにとって、まさに『薬』」(水野氏)なのだ。
○ドナーの応募は日本母乳バンク協会のホームページから

一方で、どれだけ施設が充実しても、ドナーからの母乳の寄付がなければ、ドナーミルクの提供はままならない。

「自分のお子さんを育てるだけでも大変なのに、他の子どものために搾乳して、冷凍して配送してくれています。中には、1年近くNICU(新生児集中治療室)で治療を受けた後、我が子を失ってからもずっと搾乳を続け、『小さな命のために母乳を使ってほしい』というお母さんもいらっしゃいました」と水野氏が語るように、多くの人の善意でこの事業は成り立っている。

ドナーの応募は、9月から日本母乳バンク協会のホームページで受け付けが始まっているとのこと。施設の開設によって、ドナーの応募やドナーミルクの認知がより広がっていくことを期待したい。(高村由佳)