2020年09月05日 08:11 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスによって、障害者が働く事業所に経済的な影響が出ている。厚労省も対策を打ち出したが、関係団体は「影響は深刻で、支援は不十分だ」と支援拡大を訴えた。
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4月の緊急事態宣言以降、障害者が利用する事業所の多くが休業や時間短縮をした。基礎疾患を持つ利用者が多いため、感染の重篤化リスクを避けて、事業所は休業せざるをえなかった。また、経済活動の縮小により、仕事の受注先や、製品の売り先もなくなった。
障害者が働く場や生活の場等の全国連絡会「きょうされん」の赤松英知専務理事は「作業に応じて障害者に支払われる賃金・工賃が大幅に下がった。事業者の収益も減少した」と話す。
きょうされんでは「新型コロナウイルスの影響に関する生産活動・利用者工賃実態調査」の報告をまとめ、発表した(9月1日)。主な設問は2つ。
(1)2020年4月と5月の(事業所の)作業収入額と、2019年4月と5月の作業収入額 (2)2020年5月と6月支払いの(利用者が受け取る)月額平均賃金・工賃額と、2019年5月と6月支払いの月額平均賃金・工賃額
全国583カ所の事業所(就労継続支援A型:23カ所、B型:331カ所、生活介護:161カ所、就労移行支援:8カ所、地域活動支援センター:60カ所)が回答した。
そのうち、2020年4月の作業収入額が、前年同月比減の事業所は429カ所(73.6%)となり、5月は464カ所(79.6%)となった。
また、減収額の平均は、4月が24万5435円(75万4743円→50万9308円、減収率32.5%)、5月は31万7640円(86万8295円→55万0656円、減収率36.6%)となった。
また、5月に工賃が前年同月より減額した事業所は378カ所(64.8%)、6月の減額事業所は331カ所(56.8%)で、約6割の事業所で減額。減額率の平均は5月、6月ともに約21%だった。
この結果に、赤松氏は「7月からは状況が戻りつつあるという声も聞きますが、以前の水準までには戻らず、不安は拭えない」と話す。
下がった工賃を補填する対策の現状はどうなっているのだろうか。一般的に、従業員の休業には、雇用調整助成金が利用できる。
「障害福祉事業所の職員の休業については、雇調金を活用できる場合がある。利用者について言うと、事業所と雇用関係を結ぶのはA型のみ。それ以外のB型や生活介護の利用者は対象外です」
工賃とは、利用者の作業(生産活動)を通じて得られた利益から、利用者に配分されるものを言う。
「事業所は、運営の会計と、生産活動の会計を分けなければいけません。事業所運営を対象とした公費を工賃にあてることは原則できませんでした。しかし、現状をかんがみた厚労省は、場合によっては公費から工賃を出してもいいと通達を出しました。
施設運営費や、職員の人件費も公費から出されます。事業所にとっては非常につらいところです。自分の身を削ってなんとか、利用者の工賃を捻出することになりますし、実際にそういう事業所があります」
厚労省もそのような声に答える形で、第二次補正予算に「生産活動活性化支援事業」を盛り込んだ。
これは、コロナで減収した事業所を対象に、1事業所につき最大50万円の一時金を支払うもの。
だが、赤松氏は不十分であると指摘する。
まず、支給の対象はA型とB型など就労支援事業のみ。生活介護や地域活動支援センターは対象外だ。
なにより、「1カ月の生産活動が前年同月比で50%以上減」または「連続する3カ月の収入が30%以上減」という支給要件のハードルが高い。
7~8割のA型とB型で減収しているものの、この支給要件に該当するのは45.5%に過ぎない。
さらに、A型とB型の減収額を見たところ、4月または5月が50%以上減収している場合の減収額・平均はマイナス60万5704円。
「最大50万円の一時金はありがたいですが、減収額に対してあまりに低い。そろそろ、支払いが始まると思われますが、どれだけの事業者が一時金を受け取れるのでしょうか。また、この一時金は施設の固定費などに払われるもので、工賃を直接補填するものではありません」
・工賃が下がった利用者への直接の補償
・就労継続支援事業以外の事業者も一時金支給の対象とすること
・支給要件の緩和
・一時金の増額
赤松氏はこのような支援が必要だと言及した。