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『ONE PIECE』ルフィが持つ、リーダーとしての資質とは? “周囲を巻き込む力”の強さ

2020年09月05日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 いまや誰もが知る『ONE PIECE』の主人公、モンキー・D・ルフィ。彼から勇気を得ている者は、物語世界はもちろんのこと、私たちの生きる現実世界にもあふれている。なぜ彼はこうも周囲の者たちを惹きつけるのだろうか? この論を展開していくにあたって、「ルフィは魅力的である」という身も蓋もないところからはじめたい。


参考:『ONE PIECE』ニコ・ロビンの戦闘力は? “ハナハナの実”だけではない、知識の強さに迫る


 まず、ルフィは少年マンガの主人公である。であれば、作品を牽引し、作者が連載を続けていけるだけの、それ相応の魅力が備わっていなければならない。その見た目、思想、言動……それらが広く多くの読者からの支持を得なければならないだろう。例えば彼のトレードマークである麦わら帽子に、上裸ベストとハーフパンツに草履というシンプルな軽装スタイル。それに加え、第1巻の小舟での船出シーンにおける、彼のあまりの楽観的な表情には、その行く末が少々心配になったものである。しかしそんな彼だからこそ、背を向けられない戦闘時に発する熱には大いに魅せられる。普段は気張らず、だがやる時には徹底的にやる。このギャップこそが、ルフィの魅力の一つだ。常に彼がユルユルな性格でいては読んでいるこちらも気が緩んでくるし、かといって終始臨戦態勢とあっては疲れてしまう。このキャラクターの緩急が、物語の主人公として、そしてリーダーとして重要なのである。


 ルフィの思想と言動に関しては後ほど触れたいが、次に彼が、いわゆる“もってる人”であることを述べておきたい。それはつまり、強運の持ち主だとも言い換えられる。「ローグタウン編」において、かつて海賊王が果てた処刑台でバギー&アルビダ一味によって打首にされかけた際、突然の落雷によってルフィは一命を取り留めた。これは長期連載モノの『ONE PIECE』のなかでも名場面だ。それもルフィはゴムゴムの実を食べた“全身ゴム人間”。雷に対してはノーダメージであった。ここでルフィが死んでしまってはもともこもないわけで、私たち読者に対して、さして驚きを与えることにはならなかったことと思う。しかし、彼が‘特別である”ということへの理解はより強められたのではないだろうか。途中で主人公が絶命し、そのポジションを誰か他の者が取って変わるなどの例外的な作品もあるが、ルフィのこのエピソードは基本として、主人公だから許された特権的なものだろう。彼は人も運も味方につけるのだ。


 それに、先に述べたルフィのリーダーとしての資質や、主人公として“もっている”という事実は、物語が展開するにつれてより疑う余地のないものになっている。「ドレスローザ編」でのドフラミンゴとの死闘の後、キャベンディッシュやバルトロメオといった海賊団の船長たちが勝手にルフィの傘下につき、“麦わら大船団”を結成したのもその証だ。海軍本部のあるマリンフォードでの「頂上戦争編」で、その場にいる者達を次々と自分の味方につけるルフィを鷹の目のミホークは、「この海においてあの男は、最も恐るべき力をもっている」と称している。


 ルフィは『ONE PIECE』の世界において、いまだ謎に包まれている“Dの意志”を継ぐ者であったり、父や祖父に各界の権力者がいたりと強力な血統の持ち主であるが、それに対する彼自身はどこ吹く風。ルフィが信じているのはともに航海をする仲間たちと、“努力をした果てに手に入れた”自らの力である。麦わらの一味の面々を率いる彼は、自分一人では何も成すことはできないことを自覚している。自分の弱い部分を認め、他者を受け入れる。これがルフィのリーダー論なのだ。彼が天然で、誰もが接しやすいというのもリーダーとしての資質だろう。


 かつての海賊王ゴールド・ロジャーは、“富・名声・力”を手に入れたとされているが、ルフィが目指す海賊王とは、“この海で一番自由な存在”。ここに普段の彼の思想や言動の原点が見られる。仲間たちに対してはもちろんのこと、海賊という“悪党”と目されていようとも誰に対しても分け隔てなく、支配的なコミュニケーションの取り方をしないところが、リーダーとして最も優れている点なのではないだろうか。これは私たちの社会でもいえることだ。これらのことこそが、『ONE PIECE』という超大作で、ルフィが中心に立ち続けられる理由なのだろう。(折田侑駿)