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【特集】新型「ハリアー」大研究 第4回 なぜトヨタ「ハリアー」はライバルなしのクルマになったのか

2020年09月02日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
今、話題で持ちきりの新型車といえばトヨタ自動車の「ハリアー」だ。ここまで人気が加熱しているのは、SUVブームの影響だけではない。ライバル不在とまでいわれるハリアーだが、その人気の秘密とは何か。初代からの歴史を振り返って考えた。

○初代から提案し続ける新しい価値

トヨタの都市型SUV「ハリアー」は最新型で4世代目となる。ハリアーのすごいところは、歴代のモデル全てが人気車であり、失敗作がひとつもないことだ。その人気の秘密を探るには、初代の誕生までさかのぼる必要がある。

ハリアーがデビューしたのは1997年(平成9年)12月のこと。オフロード走行など眼中にない都市型高級SUVとして登場した。当時のSUVといえば、オフロード走行なども意識した本格4WD車が基本。スポーティーなモデルもあったものの、マッチョなクルマばかりだった。

とはいえ、小さな変化も起きていた。スズキの初代「エスクード」から始まった、街乗りも意識したライトSUVの流れである。トヨタも、よりマイルドなSUVである初代「RAV4」を投入。割とSUVの守備範囲が広いことも時代は暗示していた。

そんな世の中の空気を呼んだのが、ハリアーだったといっていいだろう。トヨタは初代ハリアーを市場に投入する際、「高級乗用車の基本性能とスポーツ・ユーテリティの機動性・機能性を併せ持つ、新しい資質を備えたイノベーティブなスポーツ・ユーテリティ・サルーン」と説明していた。つまり、高級セダンとSUVの間にあるクロスオーバーモデルであったのだ。この説明自体が、当時は同様のコンセプトのクルマが存在しなかったことを物語っている。

都会的で洗練された高級感ある内外装、JBLスピーカーに代表される贅沢な装備、3.0LのV6エンジンと2.2L直列4気筒といずれも排気量が大きめのエンジンから生まれるゆとりの走りなど、バブル崩壊で元気を失っていた当時の日本では、新しい価値観を持つハリアーが輝く存在に見えたに違いない。トヨタは初代ハリアーをレクサス「RX」として海外で販売したが、内外装には手を加えなかった。このクルマの素性の良さが伝わるエピソードだ。

泥臭さの全くない新感覚SUVは、たちまち大ヒットに。このアイデアは他社にも刺激を与え、多くの都市型高級クロスオーバーSUVを誕生させることになる。国産車では日産自動車「ムラーノ」が同様のコンセプトだった。

海外でも当初は、SUVといえばレジャーで使うクルマであり、本格派が基本だった。高級車となれば全てに完璧が求められるがゆえ、都市型高級SUVは存在しなかった。そんな背景もあり、ハリアーは米国でもヒットし、後に世界にも大きな影響を与えることになる。

日本でのライバルはセダンやスポーツカーが中心で、ハリアーは上級車としても圧倒的な強さを誇った。200万円台という、手を伸ばせば届きそうな価格設定も当たった。「クラウン」などの本格的な高級車ではなく、「マークⅡ」などのちょっといいクルマの価格帯だったのだ。
○消滅の危機が「ハリアー」を強くした?

ハリアーは2003年のフルモデルチェンジを経て2代目に進化したが、人気は衰えなかった。2005年には、時代のニーズが高まりつつあったハイブリッド車も用意。こちらも好評でサクセスストーリーは続いたが、順風満帆だったハリアーに大きな転機が訪れる。それが、レクサス「RX」との統合だ。トヨタがハリアーの海外版であるレクサス「RX」の日本導入を決め、ハリアーを廃止するという話が持ち上がったのだ。

これに販売現場は猛反発。それもそのはずで、当時はトヨペット店の専売車だったハリアーは固定ファンを持つドル箱であり、手放すわけにはいかなかったのだ。ハリアーが「RX」に置き換えられれば価格が上昇し、手の届きにくいクルマになってしまうこともあって、ファンからも反対の声が聞かるようになる。

そこでトヨタは、ハリアーの販売継続を決断する。2009年には新型となったレクサス「RX」を導入したが、2代目ハリアーの販売は2013年まで続いた。ただ、RXに配慮してか、途中で最上位の3.5Lエンジン車は廃止に。そのエリアは、同じ上級クロスオーバーSUVである「ヴァンガード」が補った。

RXとの関係を断ち切ったことで、2代目ハリアーは10年という長いモデルライフを送ることになるが、販売現場の期待通り、レクサスRX導入後も安定したセールスを続けた。さらに、キャラクターの異なる高級クロスオーバーSUV「ヴァンガード」の好調もあり、ヴァンガードをハリアーに統合する形で次期型が構想され、3代目の開発が決定する。

RXとの関係がなくなったことから、3代目ハリアーは日本専売車として、日本にちょうどいいサイズで開発されることとなった。スタイリングも、人気の高い歴代モデルを彷彿させる安定のスタイルに仕上がっていた。

2013年に発売となった3代目は、2代目がロングライフとなったことや日本専用車としての素質、そして何より、奇をてらわず、純粋にハリアーらしさを追求したことが高い評価を受けた。その結果、発売1カ月で月販目標台数の4倍となる約2万台を受注している。3代目はモデルライフの中で、インテリアの質感を向上させていったことに加え、都市型SUVらしい走りの良さにもこだわり、スポーツグレード「GR」やターボ車の追加なども行った。進化の努力を怠らなかったこともファンが離れなかった要因だろう。

第2世代までは、都市型SUV人気に目を付けた他社からも日産「ムラーノ」、日産「スカラインクロスオーバー」、ホンダ「MDX」などのクルマが登場したが、ハリアーを打ち破ることはできず、いずれのクルマも日本市場から撤退した。まさに、このセグメントではトヨタ一人勝ちの構図となっていたのだ。

このように、新しい日本的価値を持つ高級車として独自の進化を続けてきたハリアーは先ごろ、4世代目へと進化を遂げた。この不況下にあっても、最新モデルは初期受注で月販目標台数の14.5倍にもなる約4万5,000台という驚異的な数字をただき出した。

今、最も人気のあるSUVカテゴリーであるとはいえ、ハリアー自体は23年の歴史の中で、その基本的なコンセプトを大きく変えていない。日本的価値の高級車像、そしてファンが求めるハリアー像を真摯に磨き上げることで、シェアを拡大していったのだ。「ハリアー」は「ハリアー」というブランドの構築に成功したのである。ハリアーか、それ以外か。ファンにそう思わせる存在であることが、ハリアーが絶大な人気を持つ秘密なのである。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)