2020年08月31日 10:11 弁護士ドットコム
インテリアショップやホームセンターなどに並ぶお試し家具。ベッドやソファ、ダイエットマシンなどを実際に試してみることで、使い心地などを確認できる。
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しかし、お試し商品を使い、不運にもケガをしてしまったという人もいる。弁護士ドットコムにも「店内に置かれていたお試し用のハンモックに座ったところ、壊れてケガをした」という相談が寄せられている。
相談者は身体を強く打ち、病院を受診したという。このように、置かれていたお試し用商品を使ってケガをした場合、店舗側に治療費や慰謝料などの請求はできるのだろうか。
大橋賢也弁護士は、次のように説明する。
「消費者が、使い心地を確認するために店舗に並べられているお試し家具を使用する段階では、消費者と事業者との間では具体的な契約が成立していません。
そのため、今回のケースのように消費者がお試し家具を使用し、家具が壊れてケガをしたという場合は、消費者は事業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を検討することになります(民法709条)。
不法行為に基づく損害賠償請求権が認められるためには、少なくとも事業者に『過失』があることを消費者が証明する必要があります」
大橋弁護士によると、事業者に「過失」があると認められるためには(1)予見可能性と(2)結果回避義務違反の2つの要件が必要だという。
(1)予見可能性 事業者がお試し家具が通常備えるべき安全性を欠いていることを認識することができ、消費者が使用すれば家具が壊れてケガをするという損害の発生を予見することが可能であったこと
(2)結果回避義務違反 事業者が(1)予見可能性があるにもかかわらず、家具を別のものに取り替えたり、修理したりするなどの措置を講じなかったこと
「以上より、通常の用法に従って使用したにもかかわらず、お試し家具が通常備えるべき安全性を欠いていたために壊れてケガをしてしまった場合、消費者は事業者の『過失』を立証することができれば、民法709条に基づき、治療費、通院交通費、慰謝料(通院期間によって算定されます)などの損害を事業者に請求することができるということになります」
しかし、消費者はどのように事業者の「過失」を立証すればよいのだろうか。そもそも、立証することは可能なのだろうか。
大橋弁護士は「壊れてしまった家具が『通常備えるべき安全性を欠いていた』ということを立証することはかなりハードルが高いと思います」と語る。しかし、消費者が「自分は通常の用法に従って使用した」ということを証明できれば、可能性はあるという。
「この立証に成功すれば、お試し家具が通常備えるべき安全性を欠いていたと推定されます。その結果、事業者の『過失』の存在を立証することもできると思われます」
ただし、これはあくまでも消費者が通常の用法に従ってお試し家具を使用した場合だ。もしお試し家具を乱暴に扱ったり、禁止されている使い方をしたりした結果、家具が壊れてケガをした場合はどうなるのだろうか。
「このような場合は消費者に過失があったとして損害額が減額される(過失相殺:民法722条2項)、もしくは事業者の『過失』の存在が否定され、損害賠償請求権自体が認められなくなる可能性があります」
【取材協力弁護士】
大橋 賢也(おおはし・けんや)弁護士
神奈川県立湘南高等学校、中央大学法学部法律学科卒業。平成18年弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。離婚、相続、成年後見、債務整理、交通事故等、幅広い案件を扱う。一人一人の心に寄り添う頼れるパートナーを目指して、川崎エスト法律事務所を開設。趣味はマラソン。
事務所名:川崎エスト法律事務所
事務所URL:http://kawasakiest.com/