先週末、2度目のインディ500を制したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨は、ミズーリ州のワールド・ワイド・テクノロジーレースウエイ(WWTR)に来ても、注目の的だった。
2020年インディ500チャンピオンということだけではなく、昨年のこのレースを見事な戦略で制していた。
昨年のウイナーの凱旋レースでもある。キー局のTVは当然琢磨に注目していたし、インディ500ではスピードウエイでレースを見られなかったファンも、このWWTRに足を運び、サウンド共にレースを楽しみにしていた。
レースがダブルヘッダーとなりNASCARとも併催されることになったため、金曜日にプラクティスセッションが設けられ、琢磨は5番手で終えた。まずは順調な出だしだ。
「ここに来る前にインディアナポリスでシミュレーターに乗って準備をして、それがうまく反映される形だったし、プラクティスが1回しかなく予選、決勝のセットをしなくちゃいけなかったので、忙しかったですけど、まずは良い方向で進みました」と琢磨。
土曜日の予選は、アイオワのように1周目のタイムが1レース目のグリッド。2周目のタイムが2レース目のグリッドという変則的な形となった。
アテンプト順はチャンピオンシップポイントの下位からの順。琢磨が18番手でのアテンプトとなった。
インディ500では精彩を欠いていたペンスキー勢の中から、ウィル・パワーがレース1のポールポジションを獲得。2レース目はなんと琢磨がポールポジションを決めた!
この瞬間に2017年のデトロイトGPを思い出していた。琢磨は同年インディ500で勝った後のデトロイトでポールを取り、レースでも4位入賞していた。
当時、琢磨は「インディ500で勝った後に、メディアツアーで疲れてみんな次の週はボロボロになることが多かったけど、僕は絶対そうなりたくなかった」と言っていたのを思い出す。
確かに今年もレース後は忙しくメディアインタビューなども絶えなかったが、体のコンディションを整えるのには余念がなかった。
エンジニアとのミーティングも密に行っていたし、ある意味では取るべくして取ったポールポジションとも言えた。これで琢磨自身インディカーで10度目となるポールポジションだった。
琢磨は土曜日レース1のポジションでは5番手、3列目からのスタートだったが、十分に優勝を狙える位置だ。
レースがまさに始まろうとする瞬間に隊列の後方で多重クラッシュが発生。アレクサンダー・ロッシ、ザック・ビーチ、マルコ・アンドレッティのアンドレッティ・オートスポートの3台にペンスキーのシモン・パジェノーらが絡みいきなりコーションでレースが始まった。
再スタートがうまく決まらず5番手から8番手に順位を落とした琢磨。インディ500のように序盤からレースをコントロールしているようには見えなかった。
ただ燃料をうまくセーブしているのか、ライバルから3~4周はピットインを遅らせることができていた。
200周のレース途中、100周を過ぎたあたりでわずか雨が落ち、イエローコーションとなった時点で琢磨は6番手だった。
だがレースを残り4分の1を過ぎる頃に琢磨の戦略の効果が現れてくる。
トップを行くパトリシオ・オワードと2番手だったスコット・ディクソンが最後のピットインを162周目に入ったのに対し、琢磨は最後のピットを175周目まで遅らせることに成功し、一時トップでリードを築いてマージンをから最後のピットに入った。
最後のピットで右リヤタイヤの交換にやや手戻り、コースに戻った時はオワードの後ろだった。
だが、フレッシュタイヤの琢磨は、猛烈に追い上げ、180周目にオワードをターン1のアウトから大きく被せてオーバーテイク! 2番手に上がるとディクソンの背中を追い続けた。
まるで先週のインディ500の続きを見ているような光景だったが、ディクソンも琢磨が追えば、ミクスチャーを変えて逃げを打った。追うほどに逃げるディクソン。最後のチェッカーはディクソンが先に受けることになった。
琢磨はピットレーンに戻って来ると珍しく悔しさを隠さなかったが、それは勝利への執念のあらわれでもある。
「最後のスティントにいくまで燃費を調整できてタイムを稼げたし、最後のピットは惜しかったけど、レースでは起こること。仕方ないです。僕だってミスをする時はある。明日はポールポジションからのスタートですから、挽回したいと思います」
インディ500ではイエローコーションでのチェッカーとなったために、アメリカではグリーンのままなら勝ったのは琢磨か? ディクソンか?という架空の議論も起きた。強いて言えば今回雪辱を果たしたのは、ディクソンの方だったかもしれない。
だが琢磨もインディ500王座の上に胡座をかくことなく、毎レース勝利への飽くなき追求を続ける。日曜日のレース2こそ、その挽回のチャンスだ。