2020年08月30日 09:11 弁護士ドットコム
札幌市や東京都で複数の女児にわいせつな行為をしたとして強制わいせつ致傷などの罪で起訴された建設作業員・池谷伸也被告人(逮捕当時43)に対する裁判員裁判が、今年7月に東京地裁立川支部で開かれていた。
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逮捕は2年前(2018年)の9月。再逮捕を重ねながら、同年12月に同支部にて公判が開かれたものの、裁判員裁判に切り替わり、公判前整理手続に付されていた。被害女児の一人がPTSDを患い、強制わいせつ致傷での起訴となったためだ。男は裁判で何を語ったのか。(傍聴ライター・高橋ユキ)
池谷被告人は2014年夏、当時住んでいた札幌市内で女児にわいせつ行為を行なったのち、転居先の東京でも女児に狙いを定め、逮捕まで4年間、わいせつ行為を繰り返した。
逮捕当時、池谷被告人の携帯電話からは女児25人分の画像が見つかっていたが、今回の裁判員裁判で被害者とされていたのは4~8歳までの女児15名。
そのうち1人の女児に対しては、長期にわたり多数回犯行を繰り返していたうえ、女児の母親が乗っていた自転車の場所から家を特定し、不在の間に家に侵入。女児のパンツを盗んだという窃盗罪でも起訴されていた。
さらには各犯行をスマホ2台で撮影しそれを自宅に保管していたほか、この動画を収めたハードディスクを名古屋市内で知人男性に150万円で売却したともいう。被告人はすべての起訴事実を認めていた。
強制わいせつ致傷、強制わいせつ、強制性交等などの、わいせつ行為の手口は概ね共通している。仕事の空き時間や休みの日に、幼い子供たちが遊ぶ公園の近くまで車を走らせ、車内からタイミングをうかがう。隙を見つけるや否や、声をかけ、集合住宅の階段踊り場まで連れ出して犯行を重ねていた。
連れ出すための声かけには、様々なパターンがある。
「思いつきで女児の自転車近くに500円硬貨を置いた。気づいた女児は喜んでいたが友達の女の子が『届けないと』と言っていた。追いかけたが一度見失い、探すと、公園内で遊んでいるのを見つけた。『500円拾わなかった?俺のなんだよ』と言うと女の子たちは『落し物箱にいれた』と言っていた。まず友達に話を聞かせてもらおうとすると泣き出したのでやめた。もう一人の子は気が弱そうだったので『ついてきて』と言うと素直についてきた」(池谷被告人の調書より)
罪悪感を抱かせたうえで人気のいない場所へ誘いこみ、わいせつ行為に及んでいたという。
時には、自宅ドアを開けた女児に「おしっこしたい!」と、トイレを借りるふりをして声をかけ強引に部屋に侵入してもいた。すでに階段踊り場で待ち伏せした上で「いててて!」と足を怪我したふりをして、声をかけてくれた女児に対しても加害行為に及んだこともあった。
このような声かけにより人気のない階段踊り場に連れてこられ、被害にあった女児の多くが、その事実をしばらく親に言えずにいた。池谷被告人が口止めしていたからだ。
逮捕により警察から連絡が来て初めて、被害を知った親もいる。だが、ほとんどの親が、こどもの小さな異変に気付いていた。繰り返し被害にあっていた女児Hさんの家族は、逮捕まで娘の被害を知らなかったが、Hさんの様子が変わったことに疑念を抱いていたという。
「最後に被害にあった2018年の5月以降、現場近くを通りたがらなくなっていました。『こわい』というので『なぜ?』と言っても、何も答えませんでした。犯人に口止めされていて答えられなかったのだと思います。小学校から帰るときも、友人と別れて一人になると帰れなくなり、ママ友から電話が来て迎えに行くことがありました。そこを通ると犯人と会うのではと怖かったのでは」(Hさんの母)
事件後にPTSDと診断された別の女児は「元々外遊びが大好きだったが、すっかり変わりました。寝るときに突然『ママ!』と叫んで泣くようになった。玄関でおもらしをしたり、身動きが取れなくなることもあります。外で犯人に似たような男を見ると『帰る』と言い出します」(女児の母の調書)と、強い恐怖を感じ続けている。
多くの女児に大きな心の傷を残した池谷被告人も、当時の妻との間に未就学児の男児2人を持つ父親だった。次男が産まれた時に、犯行を止めようと思ったが、繰り返してしまったという。被告人質問で自らの行為を問われ、こう振り返った。
弁護人「このような犯行を続けて、捕まるとは思わなかった?」 被告人「不思議と自分に暗示をかけるというのか、俺は捕まらないと言い聞かせ、信じ込ませていました」
検察官「被害児童のなかには、動画で泣いている子もいましたね。なぜやめなかったんですか?」 被告人「その場まで連れて行ってしまって、もう、勢いが止められなかった」
インターネットの掲示板で知り合った男に、自らの犯行動画を収めたハードディスクを売却した金は、60万ほど酒やパチスロに使ったという。
家族らは「思春期で犯人のことを思い出さないか心配」と、池谷被告人による行為の意味を知る頃に、再び被害児童らが傷つくことを恐れている。
「犯人を一生刑務所から出して欲しくない」と調書で訴えていたが、被告人は「私にできることは心からの謝罪しかない」「出所したら母と叔母の面倒をみながら静かに暮らしていけたらなと思います」と、うつむきながら語っていた。
のちに池谷被告人に言い渡された判決は懲役18年(求刑懲役20年)。
「多数回の犯行であること、その態様や経緯、手口の悪質性、結果の重大性によれば極めて悪質で同種事案内でも最も重い部類に入る」と野口佳子裁判長は指摘。
言い渡し後に「自分の犯した罪をしっかりと見つめ、罪の大きさを考えて欲しい、被害者の傷や親御さんの傷は一生消えない」などと裁判長は語り掛けたが、被告人に返事はなく、閉廷後もぼんやりと証言台の前に立ち続けていた。のちに控訴している。
【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。