トップへ

須永兼次の「アニソンをしゃぶりつくせ!」 第18回 伊藤美来・内田雄馬・鈴木みのり――声優アーティストの挑戦と新たな魅力 【アニサマ2020特別編その16】

2020年08月29日 12:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
16回目となる今回は、伊藤美来、内田雄馬、鈴木みのり(五十音順・敬称略)の3人を紹介。それぞれステージパフォーマンスにおいて大観衆をも惹きつけるスター性を有するDAY3出場の声優アーティスト3人は、”なんとなく知っている”といった方が特にお持ちであろうイメージとは異なる楽曲にも意欲的に挑戦。この1年の間にリリースされたそれらの曲を、今回の”予習”曲としたい。

○【伊藤美来】爽やかに飛翔していくかのような、新たなスタイリッシュさと強さ

2013年に声優デビューを果たした彼女は、持ち前のキュートさを最大限に活かしたキャラクターを中心に、寡黙なヒロインやちょっとヌケた女の子など徐々に演じる役の幅を拡大。着実に人気を集めていくと、2016年には自身の二十歳の誕生日にアーティストとしてもソロデビュー。

こちらでもキュートさを活かした楽曲から出発すると、スタイリッシュなナンバーなど楽曲のバリエーションを徐々に豊かに。TVアニメ主題歌も多数担当する一方で、キャラソンやユニットでの楽曲とは一線を画す、ミドルポップやバラードにも定評がある。

「アニサマ」には、ソロとしては三度目の出場。ステージパフォーマンスにおいても頼もしさを増し続ける彼女のこの1年の成長を、アニサマという大舞台で観られないのはやはり残念で仕方がない。

☆この曲を聴け!……「Plunderer」(TVアニメ『プランダラ』OPテーマ)

過去2回の「アニサマ」出場時、伊藤はいずれもスタイリッシュな側面をみせるナンバーとして必ず「Shocking Blue」を歌ってきた。今回はそれに対応しつつも、新たな彼女のカッコよさを感じられる楽曲として「Plunderer」をご紹介したい。

この曲は『プランダラ』のヒロイン・陽菜の視点もほのかに感じさせつつ、作品全体を俯瞰したような楽曲。サウンドのベースとなっているのはシリアスな雰囲気だが、それを重いサウンドやホーンセクションなどから構成されるものではなく、ストリングスがリードしている点がこの曲の肝。

序盤からマイナーコードを基調としたサウンドで進行しつつも、Bメロ終盤の転調を経てのサビの冒頭部分で、ストリングスが機能することで一気に飛翔していく姿が見えるのだ。開放感という意味ではシングルとしての前作にあたる「閃きハートビート」からの連続性もみせつつ、それを主題歌を務める作品になぞらえて、強さとうまくかけ合わせてみせている。

またそこに乗せる伊藤の歌声も、彼女ならではの特徴であり魅力でもあるイノセントさはそのままに、明確な意志を一本通したものに。楽曲のカラーをさらに鮮やかにするような方向性をもって、しっかりと歌い上げている。これは作品とリンクした楽曲だからこそ引き出された、彼女の新たな側面であり魅力でもあると言えるだろう。

ちなみにアニメ主題歌以外にも、アルバムやカップリング曲で良質なポップソングを量産している伊藤。「知らなくても誰でも盛り上がれる」という意味の”フェス向き”さはないため今回の”予習”としては取り上げなかったが、そちらも良作揃い。そういった立ち位置の曲ならではの楽曲と掛け合わさった際に彼女の歌声が生む魅力も、ぜひチェックしてみてほしい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
○【内田雄馬】挑戦したロックナンバーで、みせた持ち味と力強さの両立

声優としては、2012年にデビュー。2014年に『ガンダムビルドファイターズトライ』でTVアニメ初主演を飾ると、頃合いを同じくして一気に出演作が増加。作品のジャンルやキャラクターのタイプを問わず幅広い作品に出演を重ねていく。近年では吹き替えや特撮などでも活躍し、ひとりの声優としての地位を確固たるものにした。

そんな人気・実力ともに高まるなか、2018年にはシングル「NEW WORLD」でアーティストとしてもソロデビュー。爽やかな歌声を武器にリリースを重ね、昨年秋には1stツアーも成功させた。

「アニサマ」には、ソロとしては2019年に初出場。その大舞台やツアーの経験を経てまたひと回り大きくなった彼の姿を、順延のために今年のアニサマで観られないこと、非常に残念に思う。

☆この曲を聴け!……「Over」 (TVアニメ『あひるの空』EDテーマ)

デビュー以降、表題曲ではダンサブルなナンバーを歌うことが多かった内田雄馬が、初めてシングル表題曲に据えたロックナンバー。昨年アニサマのステージで歌唱したミドルポップ「Speechless」ともまた違ったアプローチを2万8千人もの大観衆の前で堂々と届ける姿を想像しながら、選曲させていただいた。

ちなみにそのダンサブルなナンバーもアニサマでソロ歌唱を果たしていない系統のものなので、そちらも観ることができたらもう言うことなしである。

「Over」の紹介へと移ろう。内田の声質は非常に爽やかなもので、ロックナンバーにしてもサウンドが重すぎるとアンマッチを起こしてしまいかねない。しかしこの曲は、彼ならではの魅力を損なわない範囲でありつつしっかり勝ち気な面も見せる、絶妙なポイントを突くことに成功している。

メロディのキーこそ従来の彼の楽曲と比べると若干高めだが、それも実はプラスに働いたポイント。そのおかげで生じた、全力で声を張り上げ歌う部分でボーカルに生じたざらつきが、挫折を経てなおバスケへと向き合っていく『あひるの空』の登場人物のひたむきさとリンク。サビ頭も丁寧に入りすぎず、燃えたぎる感情をそのまま形にしたような若干粗めなアプローチを行なったりといった声の活かし方をもって、想いの強さを十二分に表現している。

そしてそういった要素はまた、この曲をひとつの応援歌たらしめるものでもある。あと一息頑張りたい人や、大きな壁に立ち向かう人の推進力になってくれる。そんな楽曲であり、歌声なのだ。

余談だが、内田は8月26日に全楽曲をサブスク解禁したばかり。これを機にこの曲はもちろんこれまで彼が歌ってきた楽曲に触れ、夏の終わりにぜひ味わってほしい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
○【鈴木みのり】じっくり聴き込んでほしい! 高い歌唱力を活かした優しく温かなバラード

2016年に放送されたTVアニメ『マクロスΔ』のフレイア・ヴィオン役で声優デビューし一躍脚光を浴びた彼女は、同作発の戦術音楽ユニット・ワルキューレのメンバーとしても活動しながら様々なアニメ・ゲームでも声優として活躍。

2018年1月には、歌手として「FEELING AROUND」でソロデビューを果たすと、コンスタントにリリースを重ねながら歌においても表現できる世界を日々拡大し続けている。

「アニサマ」には、そのデビュー年・2018年から連続出場中。場内のオーディエンスを巻き込むパフォーマンスには定評があるうえに、2年連続で他アーティストとのコラボも実施。今年は同日にREIJINGSIGNALのメンバーとして『SHOW BY ROCK!!』の出演者としてもラインナップされており、さらに幅広いパフォーマンスに期待が集まっていた。

☆この曲を聴け!……「夜空」(TVアニメ『恋する小惑星』EDテーマ)

これまで「アニサマ」で鈴木が披露してきた曲は、2年連続で歌った「FEELING AROUND」をはじめアップテンポで盛り上がれるナンバー揃い。彼女自身に対しても"明るく元気!"というイメージをお持ちの方が多いように思う。だが彼女、バラードにおける表現力も非常に豊かなもの。多くの人に改めてそれを知ってもらいたく、シングルとしては最新曲にあたる「夜空」を紹介させていただく。

この曲は、EDを飾るTVアニメ『恋する小惑星』の物語を締めくくるのにピッタリな、静かで温かなバラード。主人公にあたるみらとあおを連想させるようなペア感も歌詞に盛り込みつつ、1曲を通して作品全体にも寄り添っている。また、イントロ一音目のビブラフォンをはじめ、サウンドの面からも美しい夜空を鮮やかに想起させる楽曲。アニメ本編とも結びつきつつ、楽曲自体のテーマも的確に表現したサウンドだ。

そんな楽曲を歌う鈴木の歌声は、とにかく温かなもの。特に歌い始めは、登場人物や作品世界に向けて優しく歌いかけるような色合いが強い。その歌声を受けて同様の温かな感情を呼び起こされたり、心地よさを覚えて癒やされるリスナーもきっといることだろう。

そして曲が進むにつれてその温かさに、満天の星空を表すようなスケールの大きさが伴ってくる。Bメロ終盤からサビにかけてぐっと盛り上がるのに加えて、Dメロの終盤にはそのピークが到来。ここだけ最高音をファルセットではなく地声を貫いて歌い上げることで生まれる高まりが、楽曲を通じて感じられる景色をさらに大きなものへと押し広げてくれているのだ。

これから迎える、秋の夜長。同一作品のOPである、以前本連載にてご紹介した東山奈央の「歩いていこう!」とセットで、夜空の下でじっくりと味わってみてはいかがだろうか?

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

自らの持ち味を活かしつつ、新たな挑戦を通じてそれを伸ばし、表現の枠を広げ続ける声優アーティスト3人。もし来年もそのまま出場することが叶ったら、そのときはどんな表情をステージ上でみせてくれるのだろうか。彼らのベストパフォーマンスに魅せられる、そんな2021年の夏が来るまで、きっとあっという間だ。

さて、次回で短期集中連載企画もいよいよ最終回。

茅原実里、TRUE (五十音順・敬称略)をピックアップするのと同時に、アニサマ2020-2021テーマソングについても掘り下げ。つながれていくアニサマの歴史なども踏まえつつ、楽曲をご紹介していきたい。どうぞ、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
まいにち勉強中。イラストのお仕事随時募集しております。Twitter→@jimaojisan12(須永兼次)