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ゲーム実況の無許諾配信とどう向き合う? 弁護士「メーカーの利益を尊重すべし」

2020年08月29日 08:11  弁護士ドットコム

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YouTubeなど動画投稿サイトの人気ジャンル「ゲーム実況」で、このところ大きな動きが起きている。ゲーム会社が著作権などを理由に、個人や法人の無許諾配信を認めない方針を明らかにしているのだ。


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無許諾配信はこれまで「見て見ぬふり」をされていた側面もある。ゲーム実況の環境整備の流れを振り返るとともに、YouTuberでもある藤吉修崇弁護士に、これからの課題を聞いた。



●口火を切ったのは任天堂

ゲーム実況の世界に大きな影響を与えたのが、業界最大手の任天堂が示した指針だ。2018年11月29日、動画配信について「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を発表した。



これは、任天堂が著作権を有する動画や静止画などについて、YouTubeなどネットワークサービスへの投稿の際に、著作権侵害に該当するか判断するもの。



このガイドラインに従えば、「個人」がゲーム実況を投稿して、収益化することが認められていた(任天堂が適法と判断したものに限る)。



法人による投稿を対象外としていたが、2020年6月1日、ガイドラインが改定された。



「UUUM」や「いちから」など、任天堂と著作物利用に関する包括的許諾契約を結んだ4つの企業(8月1日時点で計7社)については、企業に所属する投稿者も、個人と同じようにゲーム実況で収益化することを認めたのだ。



これによって、UUUMが提携する吉本興業のタレントも投稿で収益化することに問題なくなった。



ところが、任天堂が許諾を出しているゲーム実況サイドの企業名を明確にしたことで、そのほかの企業におけるゲーム実況が無許諾で行われているとの指摘がファンから相次いだ。



●カプコンやセガもあいつぐ発表

そのような動きのなかで、トラブルも顕在化した。バーチャルYouTuber(Vtuber)の事務所「ホロライブプロダクション」などを運営している「カバー」が、無許諾でゲームを配信していたとして「カプコン」からユーチューブの動画を削除されたのだ。



ホロライブ所属Vtuberによるゲーム実況動画の削除について、カプコンは弁護士ドットコムニュースの取材に「企業として利益を上げる限りは、使用許諾を取ってご使用頂きたいと考えております」との考えを示した。



前後して、著作者である各ゲームメーカーと、ゲーム実況をおこなうプロダクション側で、包括契約の動きが次々と進んでいる。



たとえば、「セガ」は7月13日にUUUMと、8月3日には「いちから」と包括契約を結んだ。この際、UUUMは「ゲーム市場においても、健全なゲーム実況動画によるタイトル認知向上や、幅広い層への訴求効果が期待され、注目を集めています」と発表している。



●個人による実況を禁じるメーカーも

一方で、企業の配信を許諾し、個人の配信を原則で許さないゲームメーカーもある。



「ディスガイア」で知られる「日本一ソフトウェア」公式のツイッターアカウントは8月2日、次のように投稿した。



「【日本一ソフトウェアのゲームを実況したい個人勢の方へ】個別にお問い合わせをいただいても、一部タイトルを除いて基本は承諾しかねます」



一部企業を許諾するのは、何か問題が起きたときに「企業勢は会社が責任をとってくれるから」という理由からだ。そのうえで、「個人勢の方は問い合わせ等せず、目の届かない範囲でこっそり楽しんで」と白黒つけずに個人ユーザーの良識にまかせる方針をみせた。



また、「コナミ」も公式サイトで「著作物の利用について、原則として個人のお客様へは許諾をさせていただいておりません」としている。個別の相談に対応しきれないことが理由だ。PlayStation4などのプレーシェア機能を使った投稿に問題はないが、収益化は「ご遠慮ください」とする。



●ゲームメーカーの狙いは利益。それを尊重すべき

これから、ゲーム実況の世界はどのような方向で整備が進むべきだろうか。弁護士YouTuberとして、「二番煎じと言われても…」を運営する藤吉修崇弁護士に聞いた。



ーー無許諾配信にはどのような法的問題があるでしょうか



ゲーム画面やプレイ動画は著作権法上、「映画の著作物」とされています。プレイ動画を録画する行為は複製権の侵害となり、YouTubeなどにおいてゲーム実況動画をアップロードする行為は公衆送信権の侵害となります。



そのため、本来ゲーム実況は、著作権者か、著作権者の許可を得た者にしか認められていない行為です。



ーー今後、ゲーム実況の環境はどのような目的に向かって整備されていくのがよいでしょうか



許可を得ていないゲーム実況は許されないという前提を踏まえたうえで、メーカーの意思を尊重すべきです。



ゲーム会社の関心ごとは、売り上げへの影響です。格闘ゲームなどであれば、ゲーム実況は購買につながる宣伝になるでしょう。しかし、ストーリーを重視したゲームの実況は、ネタバレになりかねないので、宣伝とは逆効果になることもあります。



著作権はあくまで権利なので、行使するか否かは権利者の自由です。売り上げ増に寄与することもあるゲーム実況を画一的に取り締まらず、メーカーの方で禁止するかしないかを選択したいという思いもあるのではないでしょうか。ゲーム実況が一斉に禁止になるとは考えにくいところがあります。



ただし、無許諾のゲーム実況はできないということが当たり前のものとして、ユーザーに周知されることは大事だと思います。



プラットフォーム側で対策を講じるのが効果的だと思います。YouTubeに音楽をアップロードした場合、AIが自動で「これは音楽だ」と認識します。ゲーム実況も、自動で認識し、そのうえで投稿者に「これは許諾を取っていますか」と確認・注意するシステムができないものでしょうか。




【取材協力弁護士】
藤吉 修崇(ふじよし・のぶたか)弁護士
インターネット上の誹謗中傷問題を多く扱う弁護士。弁護士になる前に、芸能関係の仕事に携わっていたことや自身も誹謗中傷を受けたことがあることから、この問題に取り組むようになった。ユーチューブちゃんねるは登録者2万人を超えている。YouTubeちゃんねる「二番煎じと言われても」
https://youtube.owacon.moe/channel/UCG649yuz_0PadkYGKnJ1Tcw
事務所名:弁護士法人ATB
事務所URL:https://hibouchushou.net/