2020年08月28日 10:11 弁護士ドットコム
HIVやエイズをめぐる課題について考える「AIDS文化フォーラムin横浜」が8月7日から9日、オンラインで実施された。
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7日は違法薬物を取り巻く「ダメ。ゼッタイ。」について考えるプログラムが開催され、精神科医で薬物依存症に詳しい松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)や元NHKアナウンサーの塚本堅一さん(ASK依存症予防教育アドバイザー)などが登壇した。(編集部・吉田緑)
※取材は配信会場である神奈川県横浜市でおこなった。
プログラムでは、違法とされている薬物の輸入や所持などによって、司法による裁きだけではなく、職を失うなどの社会的な制裁を受けた当事者が体験談を語った。
その1人である元NHKアナウンサーの塚本さんは2016年、規制されている危険ドラッグ「RUSH(ラッシュ)」を製造・所持したとして、医薬品医療機器法違反で罰金50万円の略式命令を受け、懲戒免職処分になった。
現在はASK依存症予防教育アドバイザーとして薬物に関する正しい知識を広めるため、積極的に啓発活動などに取り組んでいる塚本さん。「僕も(逮捕によって)社会的な信用を失い、孤立しました。そういう人たちがたくさんいることを知ってほしい」と訴えた。
逮捕によって医師免許の停止処分を受けた経験を持つピース医師(仮名)は、「なぜ違法薬物を使ったのか」と聞かれることに対し、次のように心境を語った。
「とても不思議な質問だと思うんです。どうしてセクマイ(セクシャルマイノリティ)になったの?という質問と一緒で、説明することが難しい」
松本医師は、新型コロナウイルスの感染者などが排除されたり、バッシングされたりしている現状は、違法薬物やその使用者などを取り巻く状況に似ていると指摘。「どういう風に注意しなければいけないのかということよりも、とにかくおそろしいというイメージが先行している」とした。
松本医師はこれまで、行き過ぎた予防啓発や規制により、違法薬物の使用者などを孤立に追い込む風潮を問題視してきた。また、違法薬物の恐怖を必要以上に煽ったり、逮捕・起訴された人をバッシングしたりする報道などに警鐘を鳴らし続けている。
そんな松本医師に「薬物に関するこわい話をしてほしい」と依頼するメディアもあるそうだが、すべて断っているという。
司会を務めた岩室紳也医師(ヘルスプロモーション推進センター代表)も違法薬物と新型コロナウイルス感染症を取り巻く状況には、当事者を責め立てるなどの共通点があるとし、その背景には「正解依存症になっている人たちがいる」と分析する。そして、次のように持論を述べた。
「私が考える『正解依存症』とは『自分なりの正解をみつけるとその正解を疑うことができないだけではなく、その正解をほかの人にも押しつける、自分なりの正解以外は受けつけない、考えられない病んだ状態』のことをいいます。
『夜の街』のように、自分なりの正解とは違う人をただ排除するだけではなく、薬物もコロナの問題も自分の身近でも起こり得ることとして考える必要があるのではないでしょうか」
「法律でダメなものは絶対ダメ」。そう考える人が多い中、規制に疑問を抱き、声を出して裁判でたたかうことを決意した男性も登壇した。元地方公務員のヒデさん(仮名・50代)だ。
ヒデさんは、ラッシュを輸入したとして医薬品医療機器法および関税法違反で起訴され、6月に有罪判決(懲役1年2月・執行猶予3年)を言い渡された。警察に家宅捜索されたことなどが職場に知られてしまい、懲戒免職処分になっている。
ラッシュ(亜硝酸イソブチルなどの亜硝酸エステル類)の有害性については科学的な見地から疑問視する見解もある。ヒデさんは森野嘉郎弁護士とともにエビデンス(科学的根拠)を集め、裁判で亜硝酸イソブチルは法律が規制する「指定薬物」にあたらないとして、日本で初めて無罪を争った。判決を受け、現在は控訴に向けて準備中だ。(詳しくはこちら:槇原敬之さんも所持、「RUSH」規制は重すぎる? 輸入した男性が「無罪」を訴える理由(https://www.bengo4.com/c_1009/n_11643/))
ヒデさんは「これまで当事者は『法律で決まっているから仕方ない』と誰も声を上げられませんでした。森野弁護士に出会えたおかげで、声を上げることができました。ひとりでは、たたかうことはできなかった」と森野弁護士をはじめとする支援者に感謝の気持ちを語った。