2020年08月28日 10:11 弁護士ドットコム
「7月ごろから、マスクをしないお客さんが目立つようになったんです。正直気になります」。こう話すのは、都内のアパレルショップで働く20代女性。徐々に店に客足が戻り始めた矢先、マナー知らずの迷惑客に頭を悩ませているという。
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女性によると、マスクをつけずに来店するのは、服が好きそうな若い男性や50代くらいのマダムまでさまざま。2人で来店し、どちらもマスクをしていないケースもある。店の入口には「マスク着用と消毒のご協力をお願いします」と張り紙しているが、目に入っていない人も多いようだ。
マスクなしの客は、スタッフの間でも話題になるという。女性は「人によって気にする度合いは異なりますが、マスクをつけていない人にはあまり接客に行きたくないですね。エチケットとして、店内では布でもいいからつけてほしいです」と話す。
マスクをつけずに来店する客を、退店させることはできないのだろうか。近藤公人弁護士に聞いた。
――来店時にマスクをつけてもらうようお願いするのはOKですか
「マスクをつけて下さい」と張り紙をしたり、マスクなしの客に対して「マスクをつけて下さい」とお願いすることは問題がありません。ただし、あくまでも、お願いであり、強制力はありません。
したがって、「マスクをつけていないので、退店して下さい」とまではいえません。張り紙が、お願い形式だからです。
――店員も感染リスクにさらされています。強制力をもたせることはできないのでしょうか
高級飲食店では、「Tシャツ、サンダルの方お断り」という表示があり、実際に断っている高級店もあるようです。一般の店でも同様なことができるか否かです。
本来、店が、商品を誰に売るのか売らないのか、店に誰を入店させるのかも、基本的に自由です。商品を売らないという自由もありますが、それをすると評判が悪くなるため、おこなっていないのが実情ですが、法の世界では、ある人に売らないことも認められています。
そして、毎日のように多数の新型コロナウイルス感染者が確認されるような現状で、かつ無症状の人も多数おり、無症状の人からも感染するという情報がある状況では、お店は、「マスクをつけないお客さんを入店させない」という対応をすることは、合法と思います。
使用者は、労働者に対して安全配慮義務があり、コロナに感染しないようにそのリスクを少なくする法的義務があり、また、来店する他のお客さんの安全も図る必要があるからです。なお、「体温37.5度以上の方の入店お断り」も、合法になるでしょう。
そして、店舗の入り口の見えるところに、「マスクをつけないと入店できません」と張り紙がある場合には、「マスクをつけていないので、退店して下さい」と言って、退店させることが可能です。
――それでも退店しない客がいたら、どうすれば良いのでしょうか
何度も、「出て行ってくれ」と言っているのにお客さんが退店しない場合、退店しない行為は「不退去罪」に該当します。なお、店員が実力行使でお客さんを店から退店させることは、違法ですのでやめて下さい。すぐに警察を呼びましょう。
状況が異なれば、判断も異なり、入店拒否の基準も変わりますので、注意が必要でしょう。なお、クラスターが発生した「〇〇大学の学生さんはお断り」は、差別で違法となります。
【取材協力弁護士】
近藤 公人(こんどう・きみひと)弁護士
モットーは「依頼者の立場と利益を第一に」。滋賀県内では大きな法律事務所に所属し、中小企業の法務や、労働事件、家事事件など、多種多様な事件をこなしている。
事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/