2020年08月25日 10:31 弁護士ドットコム
安全なはずの学校で、教師や部活の顧問など指導的立場にある大人から子どもたちが受ける性暴力が深刻化しています。
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文科省が毎年おこなっている公立校教員の調査によると、「わいせつ行為等」により懲戒処分を受ける教師は年々、増加しています。2018年度は282人で、1977年に調査を始めて以来、過去最多を記録しました。こうした事態を受け、政府はわいせつ行為をおこなった教師に対して厳罰化する方針を明らかにしています。
しかし、懲戒処分を受けるまでに至ったケースは氷山の一角だと思われます。以前より、学校で教師から性暴力を受けた子どもたちが泣き寝入りするケースは後を絶ちませんでした。
弁護士ドットコムニュースのLINE登録者にたずねたところ、小学生時代から高校生時代まで、男女問わず、教師にわいせつな行為をされたという人がいました。
中には学校や家庭でも言えず、一人悩んで自殺を考えたという人もいます。「外部の人に相談できる場がほしい」という人もいました。再発防止のためには、どのような取り組みが求められているのでしょうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
「成長するにつれて、あれは性被害だったのではないかと、とても気持ち悪く感じています」
そう話すのは、30代女性のAさん。小学校のころ、生徒たちが喧嘩をすると、担任の女性教師が「指導」としてお互いに「仲直りのキス」をするよう求めたそうです。
生徒たちが拒否すると、「恥ずかしいなら間接キスでいいわ」と言って、女性教師は一人の生徒の口にキスをしたあと、喧嘩相手のもう一人の生徒の口にキスをしていたといいます。Aさん自身も、友だちと喧嘩した際に何度かキスをされました。
「たしかに喧嘩をする生徒は以前に比べて激減したので、当時はこんなやり方もあるんだな程度に思っていました。でも、今思い返すと女子生徒同士の喧嘩だと握手だけで済ませることも多かったし、ただ男子生徒にキスしたかっただけなのかもしれないと、そんなふうに考えてしまうこともあります」
しかし、Aさんが女性教師の「指導」が「性被害」だと気づいたのは、20代後半になってからでした。きっかけは、教師による生徒への性被害の報道を見たり、小さな子どもを持つ友人たちに自分の体験を話したところ「異常」と指摘されたりしたためです。
「今はとにかく気持ち悪く感じています。子どもの性被害のニュースなどを目にするたびに思い出してしまって、不安と焦躁で落ち着かなくなります」とAさんは語ります。
「当時は、ほかの大人に相談しなければいけないという考えすらなかったので、『どういったことをされたら、ほかの大人に相談したほうがいいか』という話を、外部の人間を招いてしてもらえていたら少し違ったのかな、と思います。
定期的にいろいろな外部の大人に訪れてもらい、『相談』という形ではなく、たとえばボランティアの人たちとの給食会など、子どもが何でも話せる場があれば、周りがもっと気付いてあげやすくなると思います。少なくとも私はそうした外部の人に気付いて、助けてほしかったと大人になって思いました」
ほかにも、自殺を悩むほど深刻な被害を受けたという男性の声が寄せられています。30代男性のBさんは、中学生のとき、バスケ部の部活で、その顧問の男性教師から全裸にされたり、性的な行為を無理やりさせられたことがあったと打ち明けます。
最初は中学2年の夏休みで、部活のあとに「冷たいタオルで体を拭いてやる」と言われ、Bさんが断りきれずにいると、強制的に服を脱がされ、体を触られました。その行為は徐々にエスカレートして、男性教師の下半身を無理やり触らされたりしたそうです。
Bさんは「それ以上のこともされ、泣きながら帰ったことが何度もありました」と振り返ります。Bさんも当時は誰もに相談できませんでした。男性教師からも「誰かに話したら、どうなるかわからない」などと脅されていました。
Bさんは登校するのが嫌で、仮病を使って休んだりしていましたが、親が厳格であまり許してはもらえませんでした。「親と先生の板挟みのような状態が続き何度も死のうかと悩みました」と話します。その後、Bさんは異性との性行為に対しても嫌悪感を持つようになってしまったといいます。
「彼女ができても性行為が嫌で仕方ないです。誰に対しても心を開いて話をすることができなくなりました。 それは今も続いています。相手や周りが私を見る目が気になって悩みや何かあっても誰にも話せません」
学校での性暴力は、教師と子どもが一対一になる場面で起こりやすいと言われます。Bさんも再発防止のためには、「先生と生徒の一対一での指導をやめるしかないと思います」と指摘します。
「先生も人だから、さまざまな欲求があって当たり前ですが、それを我慢できなくて一線を超えてしまうことがあってはなりません。今、子どもたちの安全は、先生の人格に頼らざるを得ない仕組みになっていると思います。
それから、子どもの相談に乗ってくれる友だちのような相談員の方が学校にいれば、少しは話せるようになるのではと思います。ただ、先生から脅されてしまえば、どんな相談員の方でも話をできない人もいるので効果があるかはわかりません。本当に子ども目線で話を聞いてくれて、理解してくれて、力になってくれる人は必要です」
今、学校における教師から子どもへの性暴力で、注目されている裁判があります。在校時から札幌市立中学の男性教師に性的被害を受けていたとして、教師と札幌市を相手取り、石田郁子さんが起こしている損害賠償訴訟です。
石田さんは2015年、養護施設に通っていた16歳の児童が職員に性暴力を受けていた事件の裁判を傍聴したことをきっかけに、自分が経験したことが犯罪かもしれないと気づいて、ショックを受けたといいます。子ども時代に受けた性暴力は、自分が何をされたかわからず、わかったとしても周囲に相談できないケースが少なくありません。
石田さんは今年5月、教育現場における児童・生徒に対する性被害のアンケート調査( https://nomoreesm.wixsite.com/home )を実施。回答した約700人のうち、4割以上が教師などの指導者から性的な被害に遭っており、中には日常的に性行為を強要されていたなど、深刻なケースもありました。このアンケート調査は、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」にも提出されています。
政府は今年6月、性犯罪・性暴力対策の強化方針を決定し、わいせつ行為をした教師もその対象となっています。萩生田光一文部科学相も7月、衆院文部科学委員会において、わいせつ行為で教員免許が失効しても、3年後には再取得できる現在の教員免許法を改正する方針を示しました。
社会問題化する教育現場での性暴力。再発防止に向けた議論と包括的な取り組みが必要とされています。