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コロナで減収、寄付呼びかけた「目黒寄生虫館」、なぜ入館無料なの? 小川館長に聞く

2020年08月22日 08:51  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルス感染拡大の影響から、世界的にも珍しい寄生虫の博物館「目黒寄生虫館」(東京都目黒区)が8月15日、公式サイト上で運営資金の支援を呼びかけて、ネット上で話題になった。


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目標金額を500万円としたが、わずか4日で達成した。その後も寄付は相次ぎ、8月21日午前9時の時点で800万円を超えている。寄付した約1500人の多くは個人で、1人で50万円寄付した人もいるという。同館の小川和夫館長に、寄生虫館の現状と寄付の経緯を聞いた。(ライター・土井大輔)



●60年以上の歴史を持つ「寄生虫専門」の博物館

目黒寄生虫館は1953年、医学博士の亀谷了(かめがい・さとる)さんが私財を投じて設立した寄生虫専門の博物館だ。開館以来、入館料は無料で、亀谷さんが遺した基金のほか、寄生虫をモチーフにしたグッズの売り上げや寄付などを運営にあててきた。小川さんは5代目の館長で、自身も魚類の寄生虫を専門とする研究者だ。



3月上旬、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、同館は休館を決めた。約3カ月後の6月10日に再開するも、例年なら1日に最大500人を数えた来館者数が「ざっくり言って2分の1から3分の1になった」という。



今年度の収入を試算したところ、グッズ売り上げや寄付の減収に伴う赤字だけでも約650万円にのぼることが判明した。(基本財産の運用収益減などを含むと赤字は1000万円を超える見通し)。公式サイトではこれまでも支援を呼びかけていたが、今回初めて500万円という目標金額を設定した。





「正直なところ、いくらも集まらないだろうと思っていた」。関係者や研究者に手紙を書き、寄付をお願いすることを考えていたが、「ツイッターで(寄付のニュースが)拡散して、数日で達成したんです。手紙作戦は中止になりました」。まさに「うれしい悲鳴」だという。



「ただ、SNSでは『目黒寄生虫館がつぶれるんじゃないか』というような書き込みがありました。たしかにピンチではあるんですが、今のところなんとか持ちこたえています」



一方で、「これ(寄付)をやらなければ、生き残れないと思った」と言う。3カ月の休館で、春休みや大型連休に見込めるはずの来場者がゼロになった影響も大きい。「今年はなんとか乗り切れても、新型コロナは何年続くかわかりませんから」





●寄生虫の研究を続ける「研究博物館であることは重要」

同館ではすでにタッチパネルをはじめ、手に触れるものの展示を取りやめたり、月1回開催していた研究者による解説会をおこなわないなど、対策を講じているが、都内の感染者数の増加次第では、再び休館を検討する可能性もある。



収入を増やすため、入館料をとるという議論はなかったのか。そうたずねると、小川館長は「無料というのは、初代の亀谷館長の方針」としたうえで、「知識を広めるためには、無料で来てもらって、自由に見てもらうことが重要だった」と答えた。



実務面でも、同館は数名で運営しているため、入館の管理に人手をさくのが難しいという事情もあるようだ。「お金を取らないことで、こちらも自由に展示できるというメリットもあります」



目黒寄生虫館の面白さについて、小川館長は「写真はネットで調べれば出てくる。ここでは実物を見られるのが特徴だ」と話す。展示スペースには約300の標本が置かれているが、同館では約6万の標本や資料を保管している。





小川館長の「寄生虫愛」は強く、「本当は(展示されている寄生虫について)ひとつひとつ丁寧に説明したいくらい」。展示スペースの上階には研究室があり、魚類、鳥類・獣類、爬虫類・両生類など、小川館長をはじめとした研究者それぞれが専門分野の研究に取り組んでいる。



「博物館は、分類学。寄生虫の分類は基本的に形態学、つまり標本を作って分類していくんです。しかし今、分類学者は少なくなっているんです」



そうした中で、目黒寄生虫館が研究室を備えた「研究博物館」であることは重要だという。「研究しているから、こういう展示をしようとか、こんなトピックを紹介しようというアイデアが出せる。単に展示を変えるだけの施設になったら、今、どういうことが問題になっているかということを伝えていけなくなるでしょう」