2020年F1第6戦スペインGPでは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)やセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が、レース中にチームと無線で激しいやりとりをしていたことをパート1とパート2で紹介したが、このふたり以外のドライバーたちも、無線による熱い交信をチームとかわしていたので、まとめて紹介していこう。
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まず、まさに暑さに関するやりとりだ。レース前にマクラーレンが母国グランプリを迎えたカルロス・サインツJr.に無線を送る。
マクラーレン:ドリンクボトルをチェックしてくれ
サインツJr.:だいじょうぶ。でも、すでに紅茶みたいになっているけどね
この日のカタロニア・サーキットは気温30度以上、路面温度は50度にも達しそうなほど暑かった。ヨーロッパでも温暖なスペインで8月にグランプリが開催されるのは、ヨーロッパGPを除けば初めてのこと。27周目、北欧フィンランド出身のバルテリ・ボッタス(メルセデス)は、こんな悲痛な叫びをあげる。
ボッタス:この真っ黒なレーシングスーツは、めちゃくちゃ暑いよ!!
ちなみにレース後の会見で、ボッタスは「3kg痩せた」と語っていた。
その10周後の37周目、興奮気味に話していたのはシャルル・ルクレール(フェラーリ)だった。
ルクレール:エンジンがストップした。なんか壊れたみたいだ
リタイアを覚悟して、マシンを降りようとシートベルトを外したルクレールにチームから、エンジン再始動のボタンを押すように無線が入り、ルクレールはその指示通りにボタンを押すと、エンジンが生き返った。しかし1周後、再びルクレールが少し慌てた様子で無線してきた。
ルクレール:ダメだ。ピットインする
フェラーリ:聞こえるか。エンジンは何も問題ないから、走れ
ルクレール:ノー、ノー、ノー。ボタンを押したときにシートベルトが外れてしまったんだ。それでいまコクピットの中で大変なことになっている。特にブレーキを踏んだときだ。僕は構わないけど、シートベルトなしで運転しちゃいけないよね。
フェラーリ:……了解。ピットインしたら、エンジンのスイッチを切れ
39周目にピットインしたルクレールは、そのままリタイア。このレースでリタイアした唯一のドライバーとなった。
ドライバーとチームでレース中に異なる意見をぶつけ合うのは、必ずしもうまくいっていない2番手以下のドライバーだけとは限らない。ポールポジションからスタートし、ラップリーダーの座を1度も譲らないままレース後半に入っていたルイス・ハミルトンとメルセデスのピーター・ボニントンの間でも、最後に履くタイヤに関して、意見が割れた。チームはソフトを推薦したが、ハミルトンが納得いかず、たまらず無線ボタンを押した。
ハミルトン:ソフトは履きたくない。どうしてソフトにしたいの? このタイヤ(ミディアム)は問題ないよ。だから、絶対ソフトにしないでね
メルセデス:OK、ステイアウト、ステイアウト
ハミルトン:OK、もう1周する
この1周の間に、メルセデスはミディアムでも問題なしと判断。翌50周目にハミルトンをピットインさせ、ミディアムを装着してコースに送り出した。ハミルトンはその後も安定した走りを続け、トップでチェッカーフラッグを受け、今シーズン4勝目を挙げた。
メルセデス:素晴らしい仕事だった。だれにもマネすることができないタイヤマネージメントだったよ
ハミルトン:ちょっとゾーンに入っていたみたいで、さっきがファイナルラップだと気がつかなかったよ
ハミルトンがタイヤ選択に満足していたのに対して、満足できなかったドライバーもいる。12番手からスタートして、12位に終わったダニール・クビアト(アルファタウリ)もそのひとり。レース後、こう叫んだ。
クビアト:なんて散々なレースだ。本当に納得がいかない。オプションは問題なかったんだ。スタートのとき、みんなは僕の話を聞くべきだった。どっちのタイヤでスタートすべきかってね
クビアトのスタート時のタイヤは新品のソフトタイヤ。オプションがソフトだったとすると、クビアトはミディアムでスタートしたかったのか。「オプションは問題なかった」というのは、ベッテルと同様、ミディアム→ソフトでの1ストップでも問題ないということだったのかもしれない。
最後はスペインGPで最もタイヤに苦しんだドライバーの無線を紹介しよう。それは6番手からスタートしながら、8位に終わったアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)だ。チェッカーフラッグ後にアルボンのマシンから届けられた無線は入賞したドライバーとは思えないほど、ひどく落ち込んでいた。
アルボン:本当にどうやってタイヤをマネージメントすればいいのかまったくわからなかった。僕は何もできなかった。コーナーの入口でも、出口でも、常にスナップ(突然リヤが流れること)
レッドブル・ホンダ:OK、わかった、アレックス。
アルボン:僕たちはこの状況を見ないといけない。だって……ウ、ウッ、何もできなかった。本当にわからないんだ……どうすれば、どうすれば、速く走らせられるのか
レッドブル・ホンダ:わかった
途中、声をつまらせていたとき、アルボンはヘルメットの中で泣いていたのかもしれない。すると、チーム代表のクリスチャン・ホーナー代表が無線に入ってきた。
ホーナー:心配するな、アレックス。これから一緒に詳細を調べよう。たぶん、今日の君は前を走るマシンの乱流の中でレースを強いられ、タイヤがオーバーヒートしたんだろう。それでいつものような走りができなかったんだと思う
その後、新しくレースエンジニアとなったサイモン・レニーが、終盤アルボンの前を走っていたベッテルの状況を説明する。
レニー:ベッテルはソフトで37周を走った
しかし、そのメッセージは、アルボンにとって傷口に塩を塗られるような厳しい情報となった。
アルボン:信じられない。僕のタイヤはどれも7周で終わったというのに……
アルボンがレッドブル・ホンダに加入してきたのは、昨年のベルギーGP。果たして、アルボンは今年、2週間後のベルギーGPに、スペインGP前のような状態で戻ってくることができるのだろうか。