2020年08月21日 09:51 弁護士ドットコム
8月19日放送のフジテレビ「直撃LIVEグッディ!」で、京都で炎天下のなかリポートをしていた女性ディレクターが熱中症が疑われる様子を示す中、キャスターの安藤優子さんが中継を続行させたという一幕があり、批判が集まっている。
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マスク着用のディレクターは、手元の温度計が「40.1度」であることを示し、当日取材した街の人の暑さ対策を伝えようとしていた。
ところが、その最中に「あとはですね、あの…なんだっけな…」と伝える内容が出てこない様子に。「暑すぎて頭がぼけっとしてるんですね…ごめんなさい」と詫びた上で、「(スタジオに)お返ししときますね」と中継を終えようとした。
これに対し、安藤さんが「私、返されたのね?」と笑いながら返答した上で、「もう1回、お返ししていいですか」と続行を要求。ディレクターは再度リポートしようとしたが、なお言葉がうまく繋がらない様子だったため、スタジオの「こちらで引き取ります」の声とともに、中継が終了した。
ネットでは、「何で続けさせてるの!?︎」「ドン引き」「パワハラ事案」などの声があり、安藤さんに対する批判が多く上がっている。
熱中症のおそれがある様子を見せている現場ディレクターに対し、なおも炎天下でのリポートを続行させることはパワハラに当たるのだろうか。また、その結果熱中症などになってしまった場合、法的責任はどうなるのか。田沢剛弁護士に聞いた。
ーー「パワハラではないか」という声があるようです
「2019年5月に改正労働施策総合推進法が成立し、法律上、職場におけるパワハラとは、以下の(1)~(3)すべてを満たすものを言います」
(1)優越的な関係を背景とした言動である
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである
(3)労働者の就業環境が害されるものである
ーー今回のやり取りはどうでしょうか
「本件がパワハラに該当するか否かは、番組のメイン司会者が現場ディレクターに対し優越的な立場を有しているのか、という点が一つ問題になると思いますが、この点については個別の事情により判断される事柄で、即断できるものではありません。
メイン司会者がフリーランスであり、通常の職場における上下関係とは異なっているといった事情がありますし、現場ディレクターがメイン司会者の要求を拒否できないとしても、それはあくまでも番組の進行上の都合から生じる問題にすぎず、『優越的な関係を背景』によるものではないとも言い得るからです」
ーー熱中症が疑われる様子でしたが、何か法的責任を問われることはあるのでしょうか
「現場ディレクターが熱中症等になった場合には、会社側の安全配慮義務違反ないし不法行為責任の問題が生じます。
安全配慮義務というのは、雇用関係に基づいて生じる義務ですから、現場ディレクターとの関係がどうなっているのかにもよるわけですが、雇用関係がなくても、不法行為責任の問題は残ります。
もちろん、熱中症等にならなかったとしても、精神的な苦痛を生じたということであれば、同様に法的責任の問題が生じ得ます。
ただ、熱中症等にならずに済み、精神的苦痛を被った時間も短かったということであれば、現場ディレクターがその点につき法的責任を追及するなどということは、おそらくないのではないでしょうか」
フジテレビは8月20日、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「製作の詳細についてはお答えしておりませんが、今回の経験を今後の番組制作に活かしてまいりたいと考えております。なお、中継を担当したディレクターに熱中症の症状はなく、体調に問題はございません」とFAXで回答した。
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp