MotoGP第5戦オーストリアGPのMotoGPクラス決勝で起こったアクシデント。フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)とヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)が2コーナー先で接触。転倒した2台のマシンは続く3コーナーのクリッピングポイント付近まで滑って行き、先行する集団の間を横切って3コーナーアウト側のグラベルまで飛ばされた。
決勝8周目のバックストレートでスリップストリームを使ったザルコは、2コーナーでモルビデリを交わすと、ややワイドラインになりながらモルビデリの目の前で3コーナーに向けてブレーキングを開始。ラインを被せられた形となったモルビデリは行き場を失い、ザルコを避けることができず2台は接触転倒してしまう。
レッドブル・リンクは2コーナー手前に最高速度の計測ポイントがあり、ザルコは3周目に314.8km/h、モルビデリは6周目に307.6km/hを記録しており、接触時点で2台の最高速は300km/hを越えていたものと思われる。
モルビデリのマシンは2コーナーのアウト側を沿うように、3コーナーのクリッピングポイントに向かって滑って行き、先行していたマーベリック・ビニャーレスとバレンティーノ・ロッシの間を横切り、3コーナーアウト側のランオフエリアまで飛ばされてしまう。
いっぽう、ザルコのマシンはライダーを振り落とした後、2コーナーのグラベルを真っすぐ直立した状態で走って行き、2コーナーアウト側奥に設置されたクラッシュパッド(エアクッション)を直撃して跳ね返って舞い上がり、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)の頭上をかすめて3コーナーのアウト側のゼブラ付近まで飛ばされた。後続のライダーたちもコース上に散乱したパーツの残骸をよけてグラベルに飛び出すなど混乱。レースは赤旗が出され中断となった。
ふたりのライダーは激しく転倒したものの、2コーナーのグラベル内に留まり、モルビデリはしばらくグラベル上でうずくまっていたが、幸い両者とも立ち上がることができた。
ビニャーレスとロッシもマシンや飛び散ったパーツの直撃は避けられたが、タイミングやラインがずれていれば、飛んできたマシンの直撃を受けてもおかしくない状況で、そうなれば深刻なダメージを受けていたことになっただろう。
「とても怖かった。4人全員、特に僕とマーベリックはとても幸運だった。状況は非常に危険だったから、今夜はだれかに祈る必要がある。マーベリックと共に3コーナーに進入した際に、何かが僕の方に来ているのを感じた。ヘリコプターの影だと思った。レース中に時々横切ることがあるからだ」
「しかし、それは、フランコのバイクで、信じられないほどのスピードで僕の目の前を通過し、ザルコのバイクはマーベリックの頭上を飛び越えた。僕たちは本当に幸運だったけど、このタイプのインシデントが教訓となり、将来において、ライダーたちの行動が改善されることを期待する」とロッシ。
「今日はとても幸運だった。これが最も大切なこと。僕たちは大丈夫。このようなことは、レースでは起きてしまうし、常にリスクがある。あのコーナー、3コーナーは本当に危険だと毎回言っている。簡単に他車と接触してしまうから、何かをしなければいけない」
「ウォームアップ走行中には、あそこで転びそうになった。フロントがブロックしてしまい、壁の方に向かったときは怖かった。今回のインシデントは、正直なところ、何も見えなかった。バイクがクラッシュした音が聞こえ、ヨハンのバイクが壁に激突したことを感じ、バイクが僕に近づいて来るのが見えた。頭上を越え、バイクが飛び上がった。今日はとても幸運だった。だれもが救われたことが最も重要だ」とビニャーレス。
「体が少し痛いけど、大丈夫。クラッシュの映像を見ると、歩くことができてよかった。し、とても幸運だったと思う。変なクラッシュだった。ヨハンがストレートで僕を抜いて、ブレーキング中に走行ラインが大きくワイドになった。変更されたラインとスリップストリームで、僕は行き場を失ってしまい、彼を避けることは不可能だった。ありがたいことに、僕たちは大丈夫だ」とモルビデリ。
「モルビデリと大きなアクシデントに見舞われてしまい、残念な日曜になってしまった。ブレーキングで僕に衝突し、僕たちは吹っ飛んでしまった。スピードに乗って非常に接近していたことに彼は驚いた。減速することは簡単ではない。最終的にだれもケガを負わなかった。これが最も重要なことだ」とザルコ。
ザルコのチームは、テレメトリーデータから、ザルコのブレーキング開始はそれまでのラップと変わりなく、意図的にモルビデリのブレーキングを阻害するものではなかったことを明らかにしている。なお、レース後、ザルコは右手舟状骨に小さな骨折があったことが分かり、イタリアで手術を受けてから、レッドブル・リンクで2週連続開催となるスティリアGPに臨むこととなる。また、木曜日には今回のインシデントの当事者であるザルコとモルビデリから状況を聞くミーティングも実施される予定となっている。